水蔦まり

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第二十二話 その妃、夢を見る
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 明確な、境目があるわけじゃない。

 それでも『本物』と『虚構』の区別がはっきりと付くのは、目に見えているもの全てが枯葉色だからだろう――……





『――ようこそ花洛《ファルオ》へ。麗しい姫君』


 まるで白洲裁判のような場所に連れて来られた挙句、槍の切先で四方を取り囲んでおいて、何が『ようこそ』か。

 誰がどう見ても歓迎しているようには見えない。寧ろ犯罪者として吊し上げられている気分だ。



『実はそなたに頼みがあってな。こうしてここまで案内したのだ』


 壇上から人を見下ろしておいて、何が『頼みがある』だ。
 これだけの貴人がいながら、誰もこの馬鹿に教えなかったのか。人に頼みをするような態度ではないことを。

 しかも……何が『案内した』だあ?
 誘拐しておいて、犯罪者はどちらだ。



『どうだろう。一つ、頼まれてはくれないか』


 縛り上げられた上に猿轡までするのは、頼みではなく命令。拒否などしようものなら、あっという間に全方位から串刺しにされるのが落ちだ。




『内容と報酬によっては、考えてあげなくもないわね』


 どんな人間だろうと、立場ははっきりさせておく。優勢であるのは、此方だ。


 猿轡を外した直後の第一声に、容赦ない謗りや罵りが降り注いでくる。

 それを存分に浴びてから、したたかに微笑み返す。すると、壇上の貴人たちは怯んだ様子で口を噤んだ。

 たった一人、この中で最もやんごとない人を除いては。



『そう簡単には頷かぬか。思った通りだ』

『褒め言葉だと受け取ればいいかしら』

『そうだな。流石は“予言の巫女”とでも申しておこう』

『予言の巫女? 何それ』

『“そなた”を表すには相応しい名だろう?』



 やんごとなき男は、愉しそうな顔で見下した。



『頼みたいのは人捜しだ』

『……あんたのような人間様に御無理であれば、誰がやっても結果は同じでは?』

『これでも手は尽くした。この国でやれることは全てやったんだが、それでも見つからぬのだ』

『じゃあ死んだんでしょ』


 残念だったわね、とは言えなかった。
 殺気に満ちた眼が、此方を見下ろしたから。


 だから代わりにこう囁いた。
 ただの客観的な感想を言っただけで、この国の人間は殺されるのかしらと、鼻で笑いながら。




 その返答に満足したのか、静かに殺気を治めた男は、頬杖を突きながら笑顔を見せる。


『報酬の希望はあるか』

『勿論私が欲しいものよね』

『そうか。ならば、こういうのはどうだ』


 そうしてやんごとなき男は、まるで何もかもをわかっているかのような――……神のような顔で微笑んだ。




『――――……』



 そなたの“命”というのは。






#枯葉/和風ファンタジー/気まぐれ更新

2/20/2024, 9:07:05 AM