池上さゆり

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 告げられた余命は一年だった。ただし、それは延命治療を施し続けた場合の話。治療をしないというのであればもっと短いらしい。
 それを聞いた途端、両親はその場で泣き崩れた。だけど、それを言われた張本人である私に自覚はなくてどこか他人事のように感じていた。
 私の意見なんて無視して始まった延命治療はそれはそれは辛いものだった。一日に何度も交換される点滴。何のために付けられているのかわからないたくさんのコード。食事のたびに出される大量の薬。トイレすら自力で行けなくなって、視界に入るのはカーテンと無数の穴が空いたような模様をした天井だけ。
 副作用で何度も吐いて、動かなくなった身体はどんどん細くなっていった。まるでミイラになっていく自分の姿を見ているようだった。いつか枯れ果てて無くなってしまうこの身体と早く、お別れがしたかった。
 ある日、母に元気になったらやりたいことはないの?と訊かれた。私には元気になったらの言葉が、死んじゃう前にと変換されて聞こえた。
「元気になれないってわかってるのに、そんなこと訊くの?」
 ひどい言葉だと思った。母なりに気遣ったであろう一言を台無しにした。でも、それすら素直に受け入れられないほど心は憔悴しきってた。見えてくる命の終わりに涙を流すことすらできなかった。何度も謝ってくる母の顔も見たくなかった。
 結局、死に際になっても最後の願い一つ思い浮かばなかった。思考すらまとまらなくなった。

 一年後、宣告された余命通りに寿命を終えた。最後まで他人事のように感じていた人生は終わりを迎えてもなお、自分のものにはならなかった。

5/8/2023, 11:19:46 AM