満点の星空の下で僕と彼女は見上げていた。
「流れ星」
彼女はそんな言葉を漏らす。
「何かお願い事でもしたら?」
そんな僕の問いに彼女は呆れたようにため息を漏らす。
「どうして流れ星に未来を願うのか、私にはそれが分かりません」
「願掛けとかじゃないのかな」
「だとしてもです。星の光は過去の残照に過ぎないのに、それに未来を願うのですか? 過去に未来を願うって事自体が矛盾です」
確かにと頷いてしまいそうになるのを堪え、取り繕うように言葉を絞り出す。
「綺麗な物を見たら人は何かを祈りたくなるんだよ…きっと」
「それは無知ですね、いえ思考の放棄とでも言いましょうか、流れ星など星が燃え尽きる最中です、人に例えるなら葬式で手を合わせて幸せになれますように、と願うようなものです」
今日の彼女は機嫌が悪いらしい。
「大体ですね、私は流れ星が流れ切る間に願い事を三回だなんて、そんな迷信がこの世で一番嫌いなんです。知っていますか? 流れ星は0.5秒程で消えるんですよ? 三回なんて時間を止めない限り無理なんですよ」
「何かあったの?」
「自分の胸に聞いてください」
どうやら機嫌を損ねたのは僕らしい。
「何か僕が忘れているならごめん」
「忘れている事に対して怒っているのではなく、忘れられた自分自身に怒っているのです」
「それって僕の胸に聞いてもわからないヤツだね」
「そんな事は…ありませんよ」
彼女は視線を宙に向けたまま、僕の手を握った。
「貴方が気づかないから…私はこうして怒ってるんです。いえ、憤っているという表現が正しいかもしれません」
「僕にはその二つの違いが分からないよ」
「そうですか、そうですよね。でも…これだけは言わせてください」
彼女が手から不安が伝わる。
「過去があるから未来を連想出来るのです、だから…その、過程が重要なのであって、未来がどうなろうとそれは過去の積み重ねから導き出された結果であって…えーと」
「大丈夫、ちゃんと聞くから」
彼女は視線を僕に向けて、手を握る力を強くする。
「貴方が好き…なんです」
満点の星空の下、溢れたのは彼女の気持ちだった。
3/15/2023, 11:34:52 AM