趣のあるランタン

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  夢が醒める前に

 懐かしい硬い感触を背中に感じ瞼を開くと、視界に飛び込んで来たのは真っ白い光だった。

 ここに来るのはこれで7回目だ。ここが夢の世界だということは最初こそ戸惑いはしたが、こうも何回も来ていると慣れるものである。我ながら人間の適応能力には感心する。

 相変わらず質素な所だなと思いつつ、軽く体を伸ばし、立ち上がって深呼吸を2、3回してから歩き出す。

 ここからしばらく歩いた先に白い扉が現れる。しばらく、と言っても辿り着く時間はその時々によって変わってくるのでまちまちだ。
歩き始めてすぐ現れる時もあれば、一向に現れずそのまま現実世界に引き戻される時もある。

 まるでえんえんトンネルだなと思いつつ歩いていると、数十メートル先に例の扉が現れた。

 見た目は少し古めかしい木製の扉。所々白い塗装が剥げていて、そこから木片が顔を覗かせている。
扉の隙間からは白い霧のような光が源泉のように湧き出しており、周囲の白さと比べても一線を画している。

 私は右足に脱いだ上着を軽く巻き付け、意を決してL字のドアノブに手をかけ引っ張る。
が、扉は開かない。やっぱりだめかと肩を落とし、次は思いっきり引っ張る。

 すると、わずかに隙間が開きそこからものすごい勢いで周りの光を吸い込んでいく。

 私はすかさず開いた隙間に予め脱いだ上着を差し込み、一度ドアノブから手を放す。
扉は勢いよく閉まろうとするが、差し込んだ上着が邪魔をして5mmほどの隙間を残している。
そして次はその隙間に指をかけ、力いっぱい引っ張る。

 この扉を中心に奥から光が消えていき闇が迫っているのが見える。
現実の自分が覚醒しようとしているのだ。
その前にこの扉だけは開けたい。ここまで開いたのは今までで初めてだ。
 
 だから、今度こそ開けてやる!この夢が醒める前に!

 この扉の向こうには私が忘れている大事な何かがあると直感で分かる。
このチャンスを逃すと次いつここに来れるか分からない。

闇はもうすぐそこまで迫っている。もう時間がない。

 私は最後の力を振り絞り全身を使って扉をこじ開ける。
 
 そして、体が闇に飲み込まれる瞬間、扉が開いた。
 
 次に目を開くと、柔らかいベッドで見慣れた天井を見上げていた。
扉の向こうに何があったのか、直接その目で見ることは叶わなかったが、とても、とても大切なことを思い出した。

 私はベッドを飛び降り、コートだけを羽織って玄関の扉を勢いよく開けた。
 
 

3/21/2024, 9:59:02 AM