灰業みずり (話はどれも同じ世界です。是非に)

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「貴女がいなくなって、僕は」

 大きな魔法の書庫に1人。悲しみや虚無感に満ちている男がいた。
 大切な、大事な宝物。2人の経験は、とうとううつくしい思い出に昇華してしまった。

「私達のキャンドルは、火だけを残して去っていってしまった。キャンドルを失った火は、ただ1人。ふらふらと漂うだけ」

 「ねぇ、聞いていますか?」

 名前を呼び、彼女がいつも座っていた椅子の背もたれに手をついて、語りかける。

 何時間も、何時間も。

 やがて、語りかけた後、彼は地面に膝をつき、椅子に額をつけて涙をこぼしなが、大きな声で泣き叫ぶ。

「私を独りで置いていって。どうしろというんですか。貴方のいない、この広い世界で独りで生きろというのですか」

 あぁ、涙が止まらない。止まっても、またすぐにほろほろと流れてくる。
 料理を作る気にもならない。彼女がいた時は、あんなにも料理を作る時間が楽しいものだったのに。食卓を囲む人も、たった独りで食べる料理など、味もしない。
 
 あぁ、何をやってもつまらない。
 あの時に戻れないと知った今、自分はどうやって生きていければいいのだろうか。

11/22/2023, 5:02:39 AM