白玖

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[おうち時間でやりたいこと]

「なぁに見てんの」
「録り溜めしてたドラマ消化してるー」
そういやレコーダーにドラマめっちゃ入ってたな、と俺はドサリと彼女の隣に腰掛ける。
「そういや今日って帰んの?」
「帰るよ」
「明日休みじゃん。泊まればいいのに」
「やだ」
「なんで」
「我慢出来ないから」
「できるよ」
「君じゃなくて私がってこと。今日はちょっと、うん」
「別に俺は大歓迎なのに」
「こっちが我慢してるのに誘ってこないで」
「はいはい、悪かったよ。いやぁ、でも本当にお前の考え方には一周回って尊敬するわ。結婚前に肉体関係は結ばないって奴お前くらいなもんだよ。でもさぁ、それに付き合ってる俺も偉いと思わん? 従順な愛する彼氏に少しくらいご褒美くれても良いと思うんだけどー。んーっ」
「口突き出されてもちゅーしないよ」
「もー、そんな塩対応されちゃうと他の女の子のとこ行っちゃうよー? いいのー?」
「………………っちゅ」
ドラマから目を離して、ほんの少しだけ頬を膨らませて一瞬だけ押し付けられるだけのキスが降り、照れるように視線をドラマに移す。…………可愛すぎん?
「明日朝一で来るから」
「ん。楽しみにしてるわ」
こんなんで絆されるとは、俺もチョロくなってしまったもんだ。
恋愛において肉体関係は切っても切り離せない関係性だとずっと思ってたし、正直今だってそう考えてる。勿論身体の相性だけが全てでもないだろうが重要な要素の一つであることに変わりない。だからこいつに告白して『恋人になっても肉体関係は結ばない』って宣言された時はアホか?となったし、上手く言い包めたら簡単に抱けるだろとも考えてた。まぁ、全然無理だったけど。
でも、『おうち時間』なんてものが推奨されてマトモに外でデートだって出来なくなって、こうして家に籠もって何をするでもなく二人でダラダラと過ごす時間も悪いものじゃないのかもしれないと彼女と付き合うようになって思った。
「なっ、明日なにする?」

――3年後――
「まさかお前と結婚すると思ってなかったわ」
「そう?」
「うん、今だから白状するけど付き合いたての頃お前といるのつまんなかったし」
「抱けなくてもいいって言ったの誰だったっけ?」
「だからって本当に彼女を抱けないで終わるって誰も思わんって」
膝の間にお前を抱えながら喋り続ける。結婚式も済ませてそのまま来た新婚旅行の夜。正真正銘の『初夜』。
「この日をずっと待ってたはずなのになんか気恥ずかしいな」
「そう?」
「お前違うの?」
「うん。嬉しい気持ちのほうが大きい」
そう言って俺の方を振り向いて笑いかけてくる。……はー、可愛い。
「でもよく4年も待てたよね。待たせた側が言うことじゃないけど。よく私と結婚したね」
「それは、……『おうち時間』のお陰?」
「疑問形なの?」
「うーーん……、あの時ずっと一緒にいたじゃん。二人でだらだらだらだら過ごしてた時間が当たり前になってさ、それが妙に心地良くて、そんで「今でもこうして楽しく過ごせてんなら結婚しても何も変わんないな」って思ったんだよね」
「…………………………っ」
「どした?」
なんか俯いてぷるぷるしてる。かわいい――
「へっ?」
と思ったらベッドに押し倒されてた。
「そんなこと言われたら我慢できるわけないよ。もう我慢しないからね!」
「うわ〜、俺の奥さんかっこい〜」

5/13/2023, 11:52:36 AM