ガルシア

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 スリルを求めて殺人をした二人の男がいたらしい。
 初めて聞いたときは理解に苦しんだ。そこまでのスリルを渇望することなど、あるだろうか。少なくとも、自分の人生にはなかった。スリルなんて必要ない。平穏であれば平穏であるだけ良い。
 しかし、それを壊す存在が現れてしまった。彗星の如く現れたその人は恐ろしいほどに美しく、狂おしいほどに眩しかった。まるで神の最高傑作。目の前にいるはずなのに、どこか次元がズレているような気すら感じさせる。あの体には内臓なんてなくて、宇宙が秘められているのだと言われても納得してしまいそうだ。
 信じ難い衝動を呼び起こされたことを自覚するのに時間はかからなかった。あの輝く姿をひと目見ただけで気がおかしくなる。平静を装うので精一杯だった。
 壊したい。壊されたい。あの人を天界から引きずり下ろして、自分と同じ存在に落としてしまいたい。
 いつか自制が効かなくなるとわかっている。わかっているのに離れたくなくて、なあなあに日々をやり過ごしている。この醜い本性を知られたくないと思いつつ、胸の底では暴かれたいとも願っていた。そのスリルが堪らなかった。
 更なるスリルを求めたら、どうなってしまうのだろうか。


『スリル』

11/12/2023, 2:32:57 PM