海月 時

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「大丈夫。」
そう言って微笑む彼女。ごめんね。

「暑い〜。」
そう言って顔を顰める彼女。季節は7月。
「そんなに言うなら、長袖辞めればいいじゃん。」
「嫌だよ。長袖は私のトレードマークだよ。」
そう言ってクルクル回ってみせた。スカートから見える、無数の包帯。俺は何も言えなかった。

「こんな夜に呼び出してごめんね〜。」
「良いよ。暇だったし。…何かあったの?」
彼女は何も言わない。
「警察に言った方がいんじゃない?」
俺がそう言うと、彼女は少し震えた。彼女の親は、彼女に対して暴力を振るっている。彼女は体についた、無数の痣と傷を隠すために、常に長袖と包帯を巻いている。そのせいで、クラスで孤立していた。
「大丈夫。」
「大丈夫じゃないだろ。お前が言わないなら、俺が。」
「警察に言っても、何も解決してくれなかったよ。」
俺は初めて、彼女の泣き顔を見た。
「もう良いよ。助けなんて求めない。自分で何とかする。最後に君と会えて良かったよ。」
彼女はそう言って、俺の目の前に現れることはなかった。

数日後、彼女の死体が発見された。彼女の家族と共に。

あーあ。もう全部面倒くさい。全部が煩わしい。彼女を助けなかった、警察も、先生も、クラスメイトも、僕も。あの時、俺が彼女を救えたら現状は違っていたのか?
「彼女の選んだ道は正しい。そう思うのが俺の使命か。」
俺は丘の上で、彼女を殺した街の明かりが消えるのをただ眺めていた。

7/8/2024, 3:12:26 PM