墓守

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「ありがとう、冴人。君に会えてよかったよ」

酷く混乱している彼に頭の整理をさせる暇も与えず、私は彼の前から立ち去った。
出てきた言葉は今までの感謝とそして少しの欲。


――もし、次に生まれるなら人間になりたい。それで冴人と……

考えても意味の無いこと。分かっている。
でも、生物というのは自らの死を悟ると死後に強く願うのかもしれない。今の私のように。

『死ぬことで、本当の生を手に入れる。』

死を自覚した瞬間、私は生きていたことを自覚する。
本当の生なんて、そこから呼吸が止まるまでの一瞬なんだ。


私の生涯には逃げても、逃げても、絶対に消えない罪がある。それが他人の罪としても、大衆にはそんなこと関係ない。
罪の業火に焼かれていつしか私という存在が抹消されるのだと思っていた。

『今の俺にはその答えが出せない……だから、待っていて欲しい。必ず、決断する。いや、しなくちゃいけないんだ。』
『果実(かさね)?変わった読み方をするんだな。……別に変なんて言ってないだろ。〈結果が実る〉いい名前だよ』
『俺は、果実が仇なんて思わない』
『待てよっ!俺はまだまだ未熟だけどお前の、果実の為に出来ることはしたいんだ。』


冴人との思い出が胸に染みる。
あれでお別れなんて、寂しいよ。
もっともっと、お話、したかったなあ。

幸せな走馬灯。
これさえあれば、私には死後の世界なんて必要ない。
来世なんていらない。


『無意味な戯れ』

11/9/2024, 7:52:28 AM