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スマイル


とある写真展で、その人は一つの写真の前で立ち止まった。それは空の写真だった。いや、どちらかというと雲の写真だろうか。
青と白のコントラストが美しいその写真には「スマイル」と題名がつけられている。
その人は首を傾げながら、写真を見て、題名を見て、また写真へと目を向ける。少しだけ近づいてみたり、逆に離れたりしながら、その写真をじっくりと眺めてようやく、ああ、と柔らかく微笑んだ。
その写真に写る雲は確かに笑っていた。見る人が見れば、それはただの雲としか映らないだろうけれど、一度笑っているように見えてしまえば、それにしか見えなくなるのだ。
子ども心を忘れないようなその一枚に、その人は懐かしそうに目を細めて、少しだけ名残惜しげに写真の前から去っていった。

2/8/2023, 1:42:23 PM