【冬になったら】
「うぅ、さむ…」
『ね。もう冬だね。』
「…なぁ、覚えてるか?」
『何を?』
「冬になったら、星見に行くって言ったやつ。」
『あー、合宿で言ってた?』
「おう。」
今年の夏、山での合宿があった。
山と言っても、冬場はスキー場として運営する為、
安全が確保されていた。
だからこそ、だったのだろう。
日中は外に出て、清々しい空の下で
思う存分、練習に打ち込めた。
そして夜には、街灯のない暗闇で
満点の星空を眺めた。
小さい頃から星が好きだった私は、先輩達から
部屋に戻るよう促されるまで、ずっと空を眺めていた。
同級生に言われたくらいでは動じない。
そんな私に、彼がかけた言葉。
「寒い方が綺麗に見えるって先輩が言ってた。
冬になったら、また山登って星見ようぜ。
だから、今日はさっさと部屋戻れ。冷えるぞ。」
――あれ、ちゃんと約束だったんだ…。
『懐かしいね。もう何ヶ月前だっけ?』
「まだ3ヶ月しか経ってねぇよ。」
『そう?』
「あぁ」
『で?』
「ん?なんだ?」
『さっきの、星見に行こうって話。』
「おう」
『本当に行ってくれるの?』
「ああ、そう約束しただろ?」
『約束、でいいの?』
「はぁ?どういうことだ?」
『いや、私を部屋に戻らせる為の口実かと…。』
「あー、まあ確かにそれもあったが…。」
『あったんだ。』
「まぁな。だが、約束は約束だ。
どうする?行くか?」
『うん、行きたい。』
「じゃあ、次の日曜、部活休みだろ?
何か予定はあるか?」
『学校行って練習するつもりだった。』
「俺もだ。」
『じゃあ、練習して、終わったら?』
「だな。学校には16時までしかいれないから…。」
『適当に時間潰してから、だね。』
「ああ。防寒対策しとかないとな。」
『…ねぇ、山、ほんとに登るの?』
「俺はどっちでも構わんぞ。」
『じゃあ近場で済ませよ。
山じゃなくても暗い場所はあるし。』
「お前がそれでいいなら、そうしよう。」
いつもは、自分にも他人にも厳しい彼。
そんな彼が、何となく交わされた口約束を
覚えてくれていて、私の好きにさせてくれる。
『同じ部活でよかった。』
「何だよ急に。」
『は?!聞いてたの?』
「聞こえたんだよ、バカタレ」
お互いに軽口を叩き合える程度には仲良くもなれた。
こんな風に笑い合える同級生は、他にはいない。
初めの1年が、もうすぐ終わる。
残りの2年も、どうかこのまま。
仲良しごっこではなく、本当に心を開ける。
厳しい指摘をするのも、より成長するため。
厳しいといっても、理不尽なことは絶対に言わない。
お互いに信頼しているからこその厳しさ。
――この関係が、これからも続きますように。
11/17/2024, 4:13:33 PM