孤都

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     #手放した時間


    あるとき、友達が僕に言った。

   「無駄な時間だったな」と。

    それを言われたのは、僕が失恋した瞬間であった。
   その言葉を受けて、少し違和感が残ったのを覚えている。

    たしかに僕は恋をしていたけれど、付き合いたいとか
   自分のものにしたいとか、そんな思いはなかった。

    じゃあ、それは恋というのか、と聞かれたとして、
   僕は間違いなく首を縦に振るだろう。
 
   だって、この気持ちが恋である自覚があったのだから。

    大多数と同じように、その特定の人物に会えれば
   嬉しくて胸がいっぱいになるし、目で追ってしまうし、
   声も仕草も知らないうちに記憶している。

    友達と同じような存在でなければ、推しでもないのだ。

    たしかに恋だった。

    それでも付き合いたいとは思わない。

    僕にとって、彼への恋のゴールはそこじゃない。

    まあ、多少は独り占めしたいとか思ったりもしたけど
   彼の幸せを一番に優先したかったんだと思う。

    綺麗事じゃない。僕なりのエゴだ。

    彼の幸せそうな顔に、人付き合いが上手いところに、
   時折見せる誰かへの想いに満ちた目に僕は惚れたから。


    彼の恋が実ったとき、同時に僕の恋は散った。

   少しチクッとしたけれど、悲しみで溢れることはない。


    だって、彼が幸せそうな顔をしてたから。

11/24/2025, 1:39:20 AM