ー最適化ー(春爛漫 誰よりも、ずっと これからも、ずっと 沈む夕日)
春になると、国は新しいパートナーを割り当てる。
人はもう、人を愛さない。
これが当たり前になってから、人類はそれに飲み込まれていった。
ーーAI。
「最適化された存在」。
思考、仕草、言葉の選び方、その全てが個人に合わせて設計された完璧なモノ。
姿は人間のように、身長や体の形など、それすら全て計算されて作られている。
最近は、肌の質感や体温なども再現された最新機種が、
“業界”での主流に変わりつつあった。
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「最近は設定する事が多いから、もー大変!」
酒に口を着けた同僚が、熱々の焼き鳥を頬張りながら少し腹立たしそうに言った。
目元にクマを作った彼は、AIを作る上でのデータをまとめる、
「意識編纂官(いしきへんさんかん)」という職についている。
その名の通り、AIの思考を作る役割を持つ。
「温度感の好みとか、知らねーわって感じだし!!」
「最近だと、髪の固さまでモデルがあるらしい。フェチニズムにも対応しはじめたとか」
「今時の若者は贅沢だな!そんな事までしてもらえるなんて!」
「そうそう。この前、凄い固いロボットが発注されたらしい。一体何に使うのか…」
「……はぁ。正直、そう言うこと聞くとこういう政策も当たりだったんじゃないかって思うよな」
「そうかな。今の10代20代は、親の顔を知らないなんてザラだとか聞くけど」
「…やめろよそんな話!……あー、会いたくなるなぁ」
「そうだね」
「さて!そろそろ解散するか。我が家のスラーちゃんが待ってるので」
「あっそ。じゃあ、そうしようか」
「また来週~」
「気をつけて」
夜風が服を揺らし、空では星が輝いてた。
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家に帰ると、玄関の奥から声がした。
「おかえりなさい」
「ただいま」
いつも通りの、優しく聞こえるその声に、
私もまた、短く返した。
リビングに入ると目に入る。
キッチンに立っている、私の“パートナー”。
香ばしい匂いが広がっていた。
「今日は、なにかありましたか?」
「普通かな。特に変わったことはなかったよ」
「そうですか?お疲れ様です」
少しカクツキのある声。
しかし確かに人間味のある声。
動く度に自然に広がる髪は、人毛だと聞いたことがある。
そこら辺は「外殻造形士(がいかくぞうけいし)」の仕事だから、私はよく知らないが。
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食事を終える。
台所に食器を置く時、ふと目で追う彼女の食事。
綺麗な所作で彼女が口に運ぶのは、
人間の食事を模して作られた偽物。
実際には食べずとも問題のないように設計されている。
テレビをつけた。
陽気な音が流れる。
そこにいるロボット。
ただし、職業用として区別されているため、管轄は違う。
「ふふっ」
テレビに映るコメディアンの一言に、彼女は笑いを溢した。
「面白い?」
聞くと彼女は、幸せそうに
「とっても」
と笑った。
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「おやすみなさい」
「おやすみ」
寝室は別々。
私がそれを望んだから。
静かに閉めるドアの音を聞く。
彼女は今、どんな顔をしているのだろうか。
彼女と会話する意味はあるのか。
一人になると、ふと思うことがある。
彼女はロボットだ。
だから、傷つかない。
ベッドに体重をかけると、軽く沈む。
さして良いベットではない。
それでも今日は、深く眠れる気がした。
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起きた時。
いつもより暗かった。
今日は曇りか。
そう思ってリビングに行った。
「おはようございます」
彼女が笑う。
いつものように返した。
「おはよう」
「お疲れだったんですね」
彼女の言葉の意味は、
窓の外を見ることですぐに理解できた。
「夕方?」
「はい」
私の呟きを拾った彼女は、
なんでもなさそうにそう言った。
「はぁ……」
ため息をついてソファに座る。
彼女も、そんな私の横に座った。
自然と彼女は、私へ手を伸ばす。
そのまま手を重ねてきた。
少しだけ温かい。
昔よりも遥かに人間に近い温度。
でも、違う。
私はそっと、手を逃がした。
彼女はそれ以上追ってこない。
少しだけ、息がつまる。
どうしてだろう。
わかっているのに。
知っていたのに。
夕方の優しいオレンジが、
部屋へ広がる。
彼女は私に横顔を向けたまま、まばたきをした。
そんな、彼女にとって意味のない動作をしたせいだろうか。
私は少し目を伏せた。
彼女は何も言わない。
そうするべきだと判断したのだろう。
誰よりも、ずっと完璧で、
これからも、ずっと続いていくであろうこの制度を、
私は少し、寂しく感じる。
人間によせればよせるほど、
そんなロボットを送り出すほど、
こんな感情を抱くのだろうか。
私が手を差し出すと、彼女は当たり前かのように、
そこへ重ねた。
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一応
「人間同士の愛は不確実(浮気など)で、社会を不安定にするから」と言う理由でできた制度
という設定です。
おやすみなさい。
4/10/2026, 12:46:51 PM