マサティ

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お題:時計の針

Chapter 1 個性
うちで飼っている時計には3本の針が生えている。
細い針はよく動く。とても元気。
長い針はのんびり屋さん。世話がかからなくて良い。
短い針はじっと見ているが全然動かない。病気かもしれない。


Chapter 2 シンデレラタイム
僕たちは、1時間に1度だけ逢うことが許されている。
けれど、それはほんの一瞬で、あっという間に2人の時間は離れていく。
「もうこんなの嫌っ」
ある日、唐突に彼女が言った。
「そんなこと言ったって、どうしようもないよ」
「私に良い案があるの」
今晩12時になった瞬間、時計を止めてしまおうと彼女は言った。
「そんなこと出来るの?」
「やってみなくちゃ分からない」
その夜更け、12時になる瞬間を見計らって僕たちは時計の電池を引っこ抜いた。
「やれば出来るのね、私達」
「ご主人様は大丈夫かな?」
「あのね、私達は時計の為に存在するわけじゃないのよ。ましてや人間の為に動く必要なんて全く無い」
僕はそんなこと考えたことすら無かった。
それは生まれてこの方聞いた中で、最も斬新な考え方だった。
「君が言うならそうなのかもしれない」
「せっかく一緒になれたのだから、思い切り楽しみましょ」
僕らは一生分よりもっと多い時間愛し合った。
夜が更けてきた。
ベッドから寝息が聞こえてきた。
「ご主人様ぐっすりだね」
「すやすやだわ」
まだまだ、シンデレラタイムは終わらない。


Chapter 3 束縛
高校の入学祝いで腕時計が欲しいと母にねだった。
「時計なんて、うちにいくらでもあるやないの」
母が無造作にタンスの引き出しを引っ張ると、ジャラジャラと出てくる。腕時計が6つ、7つ、8つ……
真珠のネックレスや化粧道具と絡み合っている。
仄かに白粉花の匂いが漂う。
「でもね、母さん。これ全部進み方が滅茶苦茶なんだ。電池を入れて確認したけど駄目なんだよ」
「それの何が悪いのさ。今まで時間が同じように進んだためしがあったかい?」
その時、時計の盤面が一斉にギョロリと僕を見た。
止まっていたはずの秒針が、カチカチと動き出した。
ああそうか。僕はまだ、この家の時間から逃れることは出来ないのだ。

2/7/2024, 4:00:49 AM