秋月

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君と出会ってから私は、たくさんの感情を知りました。咲き誇る花を美しいと思う気持ち、輝かしいものへの羨望、美味しいものを食べる喜び、心弾ませる恋情、別れの悲しみ、失う事への恐怖、身を焦がすほどの嫉妬。
なのでこれはお礼です。私から君へ、ありったけの思いを込めた。

そう言って彼女が僕にくれたのは、箱のような形をしたパズルだった。君なら楽しんでくれると思って、なんてことも言っていたかなと自室のソファーで解く準備を整えた僕はそれを手に取って動かし始める。
回したり、押し込んだり、スライドさせたり。そうしていると段々、別の形になってきたような。
「なんか……熊みたいだな」
変形していくパズルなんて珍しいもの、どうやって手に入れたんだろう? そんなことが頭をよぎったが、まだ先の段階がありそうだと先に進めた。
「鳥……鷹かな?」
こういう形で変化していくパズルの話をどこかで聞いたことがあったような気がする。進めてはいけないと言われていたのではなかったか。あぁ、でも。
「あと少し……」
あと少しで完成するのに、それを途中でやめるなんて。それからも夢中で解き進めた。そうして、あと一手で完成する時に、このパズルがなんだったかを思い出した。
そうだ、これはリンフォンだ。地獄のアナグラムになっていて、完成させるとその地獄が出てきてしまうのだったか。……彼女は、これを知っていたのだろうか? きっと、知っていたのだろう。
何を聞いても答えてくれた、彼女がそう望むのならば。地獄の蓋を開けて、死んだって構わない。

カチリ、出来上がった魚を見て目を閉じた。

5/5/2023, 11:12:55 AM