「相合傘」
その日は雨が降っていた。
アルバイト先で私と入れ替わりでシフトに入る彼に挨拶と少しの申し送りをして仕事を上がる。
今日も会えた!
もうちょっとお話ししたかったな。
なんて、着替えながら独りごちて。
帰り支度を済ませて従業員出入り口を開けると、数メートル先に傘も差さずに備品倉庫を開けている彼が目に入った。
しとしとと小雨が降り続いている。
「濡れちゃうよ? 出入り口まで傘差すよ。」
そう言って彼の近くまで行き、彼と彼が持つ備品が濡れないように傘を傾ける。
「ありがとうございます、助かる!」
彼は大げさに感謝して私の隣を歩いた。
「なんだか相合傘みたいっすね」
「女に傘持たせて相合傘とか言うー?」
「厳しいな!それじゃあ、お疲れ様でした!」
「お疲れ様。シフト頑張ってね。」
なんてこともないような軽口を叩いて歩いたあのたった数メートルが、彼との唯一の思い出。
6/19/2024, 10:36:50 AM