しぎい

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なぜかお礼をなかなかしない友人がいた。

基本的に明るい性格。だが頑なに〝ありがとう〟といった感謝の類いを示さない。全体的にバランスの取れた彼女の、唯一不可解な点だった。

でも今日はバレンタイン。日頃の感謝を伝えるにはおあつらえ。
彼女への思いを込めたお菓子を手作りして贈った。彼女は非常に喜んでくれた。その場で食べて「おいしい」と顔を綻ばせてまでくれた。

そのとき、ずっと気になっていたことを。
お礼だけは頑なにしない理由を、会話の流れで不自然じゃない程度に、思い切って彼女に尋ねた。

「――なんで絶対ありがとうって言わないんですか?」

すると彼女の顔色が急に曇った。
私は調子に乗ってこんなことを尋ねたことを後悔した。だがそれも束の間、彼女は表情をぱっと明るくさせ、言った。

「前に、恋人に〝いつもありがとう〟って言ったら、その人、ストーカーに殺されたの。バレンタインデーの翌日だったかしら」

――だから、ありがとうとか感謝の言葉にはトラウマがあって。ガラにもないようなことを言ったのが悪かったのね。馬鹿みたいだけど、言霊って信じてるの。

そう笑いながら、彼女は私が作ったクッキーを一口かじった。彼女が嚥下するたび、私は呆然として、その喉に釘付けとなっていた。

(じゃあ私がいつも気軽に言ってるありがとうって言葉も、彼女にとっては傷に塩を塗りこめられてるようなものだった……?)

朝から気合を入れてラッピングしたクッキーだが、私はもはやそれを食べ物として見れなくなっていた。

2/14/2025, 2:56:41 PM