「雨……」
「生憎の空模様だね」
ぽつりぽつりと溢れ落ちる雨を見て呟く私に彼はそう笑った。朝はあんなにもお天気だったと云うのに、ご機嫌だったはずの空は今、こんなにも荒れている。天気予報ニュースにも予測出来なかった雨は風に吹かれて私の足を濡らした。
「傘持ってくれば良かったかしら。天気予報をあてにしすぎたわ」
「仕方ないよ……予想は予想だしね」
ただの推測、と、けらけら笑う彼はぐーっと伸びをした。
たくさんの生徒が「傘入れてー!」「雨強!」なんていいながら帰っていく。人によっては仲睦まじく相合傘をして身を寄せあって帰路についている。
なかなか趣深い光景に私はほぅっと無意識にため息をついた。
「傘持ってきてる?」
私は隣に立つ彼に問うた。
彼は背中に背負った鞄から黒色の折りたたみ傘を取り出して私に見せつけた。
「相合傘でもする?お嬢サマ」
「紳士はもっと恭しくお誘いするものでしてよ。」
「生憎僕は紳士じゃないな」
笑いながら傘を開きかけた彼の手を私は制止した。
「濡れて帰りましょう」
目を見開く彼。
しばらくぎょっとしていた彼も、いつの間にかふっと笑っていた。
「そうだね」
相合傘をしようと開きかけた傘を閉じて私たちは雨の下を歩いて帰った。
今日は生憎の雨。
だからあえて、相合傘のような甘いことをせずに、濡れて帰ろうか。
6/19/2024, 2:06:17 PM