"安らかな瞳"
亡くなるまでの数年間、祖母の前では瞳の色を偽り続けた。
僕の目を見ると、"違う、お前は誰だ、娘を返せ"と怒って泣くようになってしまったから。
祖母と、祖父と、彼女の三人で完結した世界。
彼女がこの家に居た年数より僕が祖父母と過ごした時間の方が長くなっても、やっぱりこういう状況になった際に思い出されるのは僕じゃなくて彼女の方で。
現在を忘れて過去の記憶を彷徨うようになった祖母は、僕と向き合っていた時よりもずっと幸せそうだった。
だから、無理に現実に引き戻す必要なんて無いと思ったんだ。
あぁ、違うか。
僕自身が、偽りでも祖母に安らかな瞳を向けて欲しかったんだ。
カラーコンタクトレンズの付け外しで鏡を覗き込む度に、自分の醜さに吐き気がした。
祖母の大切な"家族"になりすましてまで関心を得ようとする自分。
そのくせ向けられる感情が僕に対するものでは無いことに勝手に絶望する自分が嫌いで。
せめてこの目が祖父母や彼女と同じ色だったらまた少し違ったんだろうか、とそんな浅ましい事を思ってしまう自分が心底嫌いだった。
3/15/2026, 5:31:45 AM