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 子供の頃、お盆のころになると祖父母の家に一週間ほど泊まりがけて行くのが私の家族の毎年の行事でした。母方のいとこたちもちょうどその頃遊びに来ていて、みんなでわいわいボードゲームをしたり、近くのプールへ行ったり、夜は庭で花火をしたり、とても楽しかったのですが、私には唯一怖いものがありました。
 それは居間にあった鳩時計。1時、2時、とぴったりの時間になるとぽっぽーという音とともに小屋に見立てた箱から鳩が飛び出して時をつげる、あれです。あの鳩そのものは可愛らしく、怖いというわけではありません。じゃあ何が怖かったのかというと、夜中にその鳩が鳴くのが怖かったのです。
 私はもともと神経質な性格で、自宅ではないところではなかなか寝付くことができませんでした。夜、いとこたち、私と姉の布団を祖母が並べて敷いてくれた10畳の広い部屋はまるで林間学校のようでした。寝静まるまでは枕投げをしたりして大騒ぎですが、そのうち年下の子たちがひとりふたりと寝落ちしてゆき、最後はいつの間にか皆が寝てしまいます。さっきまでの騒ぎが嘘のように静まりかえった空間に私はひとり取り残され、目を瞑っても一向に眠れないまま、皆が立てる寝息を聞いているのです。だんだん眠れないことに焦ってきて、涙が出そうになったころ、追い討ちをかけるように聞こえてくるのが、居間の鳩時計の音です。時が過ぎたのを音で知らせてくれるのは、時に残酷です。ああ、あれから1時間たってしまった。このまま眠れなかったらどうしよう。そう焦れば焦るほど心臓がどきどきして眠気は遠ざかっていきます。
 しかしそのうち、久しぶりに祖母に会い、夜更けまで話し込んでいた母が端っこに敷かれた布団に入る気配がして、私は泣きそうな気持ちを堪えながら、そこに潜り込みます。母は私が布団に入れるように身体を寄せて、掛け布団を開けてくれます。
 そうしてようやく私は安心して眠れるのです。
 お盆の時期になると、あの鳩時計と、母の温もりを今も思い出します。

9/7/2023, 9:57:19 AM