すゞめ

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 朝からツラがいいな……。

 朝焼けより数倍もまばゆい彼女の寝顔に目眩がした。
 珍しくよく眠っている彼女の頬に手を伸ばす。

「ん……っ」

 規則正しい寝息が乱れ、枕とシーツが音を立てる。
 身を捩った彼女から放つ、ささやかな幸せの音に胸の奥が締めつけられた。
 はらりと重力に従った横髪を彼女の耳にかけたとき、重たそうに瞼が持ち上げられる。

「……?」

 ふわふわの睫毛の隙間からうっすらと覗いた瑠璃色の瞳は、ぼんやりと揺蕩いながら俺を捉えた。

 かわいい。

 この寝起きを毎日好きなときに拝めるとか最高でしかない。
 もちろん、俺が早起きできればの話ではあったが。

 空が明るくなる時間もすっかり遅くなり、朝晩の気温の冷え冷え込みも厳しくなってきた。
 同棲して初めてともに迎える季節に、彼女もまだ慣れていないのだろう。

「あ、れ……?」
「おはようございます」
「寝すぎ、た?」

 少しばかり焦った様子で体を起こそうとする彼女に腕を伸ばした。
 腕の中に閉じ込めて、ぎゅうぎゅうと彼女の体温を堪能する。

「今日は休みでしょう? 少しくらい起きる時間がずれても問題ないのでは?」
「……やすみ……」

 俺の言葉を拙く反芻する彼女にうなずくいた。
 ベッドの上で近くなった視線をいいことに、軽い気持ちでキスをする。
 少し乾燥した彼女の唇が潤いを含んだ頃、朝から爛れた感情が肥大化する前に唇を離した。

 まだポヤポヤしてる。
 意外と、寒くなると起きられないタイプなのかも。

 触り心地のいい頬を撫でていると、彼女が全力で甘えてきた。

「もう、おしまい?」

 は?
 カッ、と理性にヒビが入る。

「……もっと」

 はあっ!?

 ん。
 なんて、彼女は顔を上げて瞼を伏せて、唇を差し出す。
 太鼓のリズムゲームよろしく、おにモードで理性と心臓を壊しにかかってきやがった。

「あ、あとで怒るのはナシですからね……?」
「んー……」

 激しく心臓を揺さぶられながら、俺は彼女の唇をさらっていくのだった。

   *

 その夜。
 寝支度をすませた彼女は無防備にベッドへ潜り込む。
 枕に縋りついた彼女の上に跨ると、彼女は目を丸々とさせながら顔を向けた。

「え、あ……? す、するの?」
「ダメですか?」
「そういうことじゃ……。けど」
「けど?」

 暗がりでも彼女の頬が赤く染まっていくのが、雰囲気でわかる。
 ぶつかっていた視線を恥ずかし気に逸らしたあと、彼女はしどろもどろに言葉を紡いだ。

「だ、だって。朝……、あんなに……」
「あぁ」

 わかっていたが、案の定、好き放題しゃぶりついた結果、彼女にはしこたま怒られた。

「あれは、あなたのリクエストにお応えした結果でしょう」
「あ、あそこまではっ!? も、求めてなかった……っ」

 寝ぼけていたとはいえ、発言の自覚はあったらしい。
 ボンッと顔を真っ赤にした彼女は、すぐに勢いがしおしおと萎んでおとなしくなった。

「……微調整が必要なら事前に要求しておいてください」

 今ですら、恥ずかしそうに身を縮める姿すら愛おしいのだ。
 あんなふうに煽られ、後出しで彼女からのワガママを聞けるほどの理性なんて残るはずがない。

「とにかく。それはそれ、これはこれです」

 彼女の纏う強張った雰囲気。
 羞恥に染まって逸らされた視線。
 浅くなった小さな息づかい。
 紅潮した頬に、汗ばんでいく手のひら。
 焦ったく響くシーツの衣擦れ。

 簡単に俺に押し倒されて、彼女の全てが俺の影に覆い尽くされた愛らしい姿にそそられる。

「なに、それ……」

 澄んだ瑠璃色の瞳が怯えたように震えて、俺という影に睨まれていた。

「今度は俺があなたを求める番でしょう?」

 容赦なく距離を詰めて彼女に迫る。
 鼻先を擦り合わせて、逃げていく彼女の視線を追いかけた。

「イヤなら、やめますよ?」
「イヤじゃないから……、困ってるの」
「そうですか」
「恥ずかしいから、全部、言わせないで」

 キュッと俺の指に細い指が絡まる。
 口元が緩んでいくのを感じながら、彼女の熱を求めていった。


『光と影』

11/1/2025, 12:45:43 AM