『風に身をまかせ』
時間のない朝なのにもかかわらず、鏡に映った寝癖のひどい髪をジッと見つめる。もともと硬い髪質で、少しクセもある。
まずは百均で買った霧吹きで、髪を軽く湿らせ、少し時間を置く。この時、髪をビシャビシャにしないことが大事だ。整髪料は両手に揉み込むように広げ、素早く髪全体に馴染ませ、サッと形を整えていく。ヌリヌリネジネジ。
できあがりは…
「スネ夫やん」
「花輪くんやん」
「毛利蘭やんっ」
次々と一人ツッコミが決まる。
でも、慌てる段階ではない。テーブルのコーヒーを一口含み、スーツの上着にスッと腕を通す。ゆっくり玄関のドアを開ける。
「今日もいい風が吹いているな」
毎日、出勤で通る海風の強い道を、時間をかけて歩く。
ときどき首を傾け、風向きに合わせるように歩く。
オールバックになり、七三になり、時に一九に分かれる。強風は俺の艶やかな黒い髪をなびかせる。
「Aさん、いつも本当に髪決まってますよね。髪の流れが絶妙すぎます。朝、セットに時間かかりません?」
「ああ、社会人として身だしなみには、こだわらなきゃな」
5/14/2026, 11:04:24 AM