川柳えむ

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「それでは20歳になったらみんなでこのタイムカプセルを開けましょう」
 小学生の頃、学校でそんなイベントがあった。
 当時、一番仲良かった友達と、「じゃあ開ける日は一緒に来ようね」「約束だよ」。そんなやり取りをしたなぁと、思い返していた。
 20歳、約束の日。
 きっとみんな忘れているだろうな。そう思いながらも小学校へ向かった。
 当時約束した友達は、あの後引っ越してしまって、連絡先がわからない。約束を果たすことはできなかった。
 でも、もしかしたら来てくれるんじゃないかって、淡い期待を胸に抱いていた。
 わくわくしながら向かったけど、誰一人そこにはいなかった。なんて、よくある話だ。
「……やっぱり、誰も来ないか」
 約束の時間になっても、そこには自分しかいなかった。
 みんな、今を生きているんだろう。あの頃のことなんて、忘れて。
「……もしかして、……ちゃん?」
 突然名前を呼ばれて、振り返る。
 そこには、あの頃の面影を持った、ずっと会いたかった友達の姿があった。

「みんな来なかったな~」
 友達と二人、居酒屋からの帰り道。
 少し愚痴を混ぜながら、でも、なんだか清々しい気持ちで歩いていく。
「でも、君に久しぶりに会えたから、僕はそれだけで嬉しいよ」
「そんなの、俺だって!」
 他には誰も来なかった。だから、何を書いたかも覚えていない、あの頃埋めたタイムカプセルは、今も地面の下にある。
 そのまま忘れ去られても構わない。
 今まで会えなかった時間なんて、もうどうでもよかった。
 俺達は今を生きている。


『約束だよ』

6/4/2025, 7:31:46 AM