宛もなく、ただ路地を漂っていた。目的地なんてない、足音だけが響く暗闇を、波に浚われるみたいに歩き続けていた。
街灯の灯りが目を差す。そこから視界に入ってきたのは、小さなダンボールだった。寒空の下、何も知らない無垢な子猫は、漆黒の双眸をこちらに向けていた。
『ひろってください』
思わず、手を差し伸べる。未熟ながらも温かい塊は、私の手をただ受け入れていた。少し目を細めて、されるがままになっている。
「君も、一緒か」
二度と再現できない、優しい手でそれを抱いた。
一人と一匹は、闇夜を往く。
11/15/2024, 3:24:15 PM