【きらめき】
幼い頃、一度だけ母にコンサートへ連れて行かれた。ほとんど親と出かける機会なんてなかった当時の僕は、いろいろと荒んでいた時期だったことも相まって、会場に入ってからも終始不機嫌だったことを覚えている。
友だちとの関係、理不尽で大嫌いな先生、僕に対してほとんど無関心な両親……今となっては些細な悩みでも、当時の僕にとっては人生の全てが暗闇に覆われたくらいの心持ちだった。そんな時に関わりの薄かった母親に無理矢理連れ出されたのだから、全身で不満を表すことくらいは許されるだろうと僕は思っていた。
だけどそんなささやかな抵抗は、ライブが始まった瞬間にどこかへと吹き飛んだ。大音量で鳴り響く音楽、華やかで色とりどりの衣装、ステージを染め上げる鮮やかなライティング……ああこの世界にはこんなにも目まぐるしく美しいものがあったのかと、僕の全身に衝撃が走った。
気がつけば母親から押し付けられていたペンライトを夢中で振っていた。あの日以来、僕の世界はすっかりと変貌してしまった。
歌を練習した。踊りを練習した。いくつものライブに足を運び、美しい夢に酔いしれた。そうして今、僕は。小さな小さなステージに、両足を踏みしめて立っている。
幼い頃に見た、星よりも眩しい特上のきらめき。今日から僕は、そのきらめきを纏って生きていく。
ペンライトの海が客席を埋め尽くすステージで、僕は大きく息を吸い込んだ。
9/4/2023, 9:57:08 PM