空はこんなにも
「ねえ、ママ。空はこんなにも広いんだよ。顔を上げてみて。」
そう娘にうながされて、一気に視界が開けた。
この数年間、下ばかり見ていて空を仰ぎ見るなんて皆無だった。
カーテンも閉めたままだった。
心を閉ざしていた。
人にされて嫌だったこと。苦しかったこと。自分も人に嫌な思いをさせたのではないかという不安感。母が癌で亡くなったこと。その他諸々のことで、頭の中はずっと暗雲が立ち込めていた。心がずっと重かった。
空がこんなにも広くて、美しいことすら気付けないでいた。
暗い沈んだ気持ちは、今日まで堂々巡りで悩みの底に沈んでしまっていた。
私の様子があまりにおかしかったのか、娘の夏美は近所の公園に私を連れ出した。
太陽が煌めく、真夏日だったのを覚えている。
顔を上げた私は、今日からこの広い広い空の、ぽっかりと浮かんだ雲のように、自然に身を任せて生きていきたいと思った。強く…強く思った。
人生なるようになるさ…。
娘から肩をぽんと叩かれた気がした。
ちっぽけな世界でもいい。これからは、顔を上げてこんなにも広い宇宙(そら)と共に歩もう。
昨日の私にさよならを告げて。
歩き出した私は、今幸せをかみしめている。
夏美の言葉を胸に抱きながら…。
6/25/2025, 7:05:11 AM