どすこい

Open App

「空に溶ける」

「ねぇ、私、明日宇宙船に乗ろうと思うの」

彼女はそう言った。誰もいない屋上、静まり帰った学校。宇宙移住計画が始まってもう早五年。地球に残っている人ももう私たちを含めて数十人しかいない。
人間の発展によって進んだ気候変動や空気汚染により、地球は近い将来人類が暮らせる状態ではなくなると判断された。だから、多くの人が水や食糧を持って宇宙へと飛び立った。宇宙船が瞬く間に発展し、もはやかつての地球よりはるかに進んだ状況になった今、ここに止まる物好きはあまりいない。それでも私たちはここに残り、誰もいなくなった屋上で空を見上げて毎日のように語り合った。そんなこの街にも、一年に一度宇宙船が戻ってくる日がある。久しぶりに我が家に戻りたいという人や宇宙船に乗りたくなった人たちのために、数日間滞在するのだ。明日がその出発の日。
ある日、この屋上で小指を絡めて誓ったことを、彼女は忘れてしまったのだろうか?
私たちはずっとずぅっと一緒に地球にいようねと言ったのに。

次の日、いつものように支度をして学校へ向かう。そして、門に手をかけたところで気がつく。もう、屋上へ向かう必要もないのだ。彼女はもう、出発してしまったのだろうか。それでも他にやることもないのでやはり屋上へ向かうと、一通の手紙が目の前に落ちる。見慣れた彼女の字。

「あなたがこの手紙を読んでいる頃には、私はもうきっとこの世にはいないでしょう。どうやら、私の体では汚染されていく地球の環境に耐えられなかったようです。嘘をついて、ごめんなさい。約束を守れなくて、ごめんなさい。」

なんてことだろう。彼女は、約束を忘れてなんて、いなかった。君は別の意味で空へと向かってしまった。

「ねぇ、私、ずっと君のことが好きだったんだよ」

つぶやいた言葉が、空に溶ける。
君がいるはずの、はるか空へと。

5/20/2025, 1:44:23 PM