もう関わることのないであろう人間のことはこの世からいなくなったと同然の扱いをする。
二度と会うことはないのだから、亡者と変わりないだろう。相手から別れを告げたのなら尚更。
「仕事で東京に戻るから会お」
突拍子もなく届いた台詞に驚きつつも、冷静に言葉を返す。
「まだ一緒にいたい」
終電前、袖を掴んできた君を連れて踵を返す。
上手く笑えているのかわからない。チープなホラー映画を呆然と眺めている気分だった。
これはポルダーガイストだ。メッセージなんかはよく聞く話だし、幽霊だと気付かず共に1日過ごすというのも聞いたことがある。腕や脚に手形を残す程に掴んできた話だって有名だ。
……それじゃあ幽霊を抱く話はどうなんだ?
疲れ果てた君は隣で無防備に寝息を立てている。呆れて失望して軽蔑して距離を置こうとした生前の記憶は忘れてしまったのだろうか。
この世の者ではない存在と一緒にいると生気を吸われて体調が悪くなるらしいというし、仄かに感じ続ける吐き気はそのせいだろう。
これは悪霊だ。成仏出来ない哀れな霊。そんな悪霊を抱いた自分は完全に取り憑かれたんだろうな。
でも馬鹿な霊ではないと知っている。
わかっているだろう。いくら生きた人間に取り憑いたって決して幸せになれないと。だってもう生きていないんだから。
この夜が明けたらきっと君は光の方へ飛んでいく。
「じゃあまたね」
また君は地を這う自分を置いていくんだろう。
だったらとっとと成仏して消えてくれ。
生きてた君は嫌いじゃなかったが、幽霊や遺体には興味はない。
どうせ近いうちに自分もこの世を去る。もしも君が望むのならばその後に。
お互い、生まれ変わったらまた会おう。
11/14/2024, 6:38:42 AM