イオリ

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この世界は
 
 三分間は三分間だ。誰かが頼んだわけでもないだろうが、時計の針はせっせと進む。

 相手は長いリーチを活かした、典型的なアウトボクサーだ。距離の取り方がいかにも、というベテランの試合巧者ぶり。7ラウンドを終えても、今だに懐に入れてもらえなかった。

 一分間のインターバル中に、セコンドが必死に指示を出す。だが、はっきりとは覚えられなかった。覚える必要もない。やることはわかっている。

 ゴングが鳴った。標的に駆け寄る。が、スナップの効いたジャブでこちらを威嚇する。かすっただけで、皮膚が焼けるように感じた。

 頭を振る。もっとだ、もっと速く。作戦などない。彼の拳よりも速く疾走れ。

 二発目のジャブをギリギリまで引きつけてかわす。バランスを崩した相手は、ステップバックで距離を取ろうとした。

 逃さない。疾走れ。速く、速く。
 あんたにも他の誰にとっても、世界は同じ時間の見せ方をするんだろう。けど俺だけは、今の俺だけはちがう。世界の全てを置き去りにして走る。
 
 一気に間合いを詰めた。慌てたショートフックが出てきたが、パワーがない。長い腕が邪魔そうだな。ストレートを振り抜いたあと、そう頭に浮かんだ。
 

 

 

1/15/2024, 10:51:26 PM