[ルール]
この刀を使う時に声を出してはいけない。
僕が祖父から受け継いだ時、これだけは絶対守れと言われたルール。
どうせ刀を使う機会なんてないし、と軽い気持ちで頷いた。
そして、1ヶ月くらい経った頃。僕の周りで異変が起きはじめた。
異臭がする。
物音がする。
視界の隅で何かが動く。
電柱の影に人影がある。
ベッドの周りを何かが取り囲む。
夢の中で何かが追いかけてくる。
薄暗い夢の中で逃げ回る僕は、何故かその刀を抱いている。
息を詰めて。声を殺して。見つからないよう、追い付かれないよう。必死に走って。
回り込まれて。道いっぱいの大きな目が僕を見下ろして。
もうだめだ。と思った瞬間、刀が小さくかたりと音を立てた。
ダメ元で鞘から抜く。薄暗い闇の中にすらりとした静かな光が伸びる。
瞳孔がぱかと開く。中にギザギザの歯が見える。
あ、これは食べられる。立ち向かってみたけど僕には無理だ。
「……たす、けて」
声が出た。
瞬間。
頬を切るような冷たい風が吹いて。
「ふ。ふふ……。よくやった少年!」
寒桜のような少女が、僕の刀を手にして立っていた。
シャンと伸びた背筋。自信に満ちた笑顔。
背後の目は真っ二つになって崩れ落ちていた。
「……え……」
彼女はなんなのか。あのルールはなんだったのか。
僕はこれから、それを身をもって知ることになるとは思ってもいなかった。
4/24/2023, 11:24:21 AM