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奇妙な目に対して俺は自由気ままに振る舞う。
どこまでもついてくる目から変わった鳴き声がした。
いや、違った。変ないきものではなく、俺の主人だ。
俺はどこにでもいるただの柴犬、つまり犬なのだ。
指示された通りに動けば、うまいおやつがもらえる。
特に主人が持つヘンテコな目のついた四角の前だと多く与えられるんだ。
だから俺は今日もパフォーマンスをするのだ。

おやつもほしい。だけど、ごはんをたらふく食いたい。
どうすればいいだろう。
「がめついっすね、センパイ」
空から降ってきたその声に、うんざりした。
「おめえだって腹一杯メシ食いたいだろ」
「ふん。まあセンパイほどではないっすけど」
声の主のしっぽと思われる部分が揺れているのがわかる。馬鹿にしてんのか?
「なんかいい方法ねえかなあ」
そこらへんに転がっていたお気に入りのボールを噛む。
「センパイ」
突如として姿を現したコイツに俺はおおげさにビビってしまった。そんな俺をコイツは鼻で笑い、三角形の耳を震わせる。
「確実ではないっすけど。ぼくら手を取り合って協力し合えば、ごはんいっぱい食べられるかもっすよ」

また、奇妙な目が俺らを追いかけまわしている。
俺らは一緒に駆け回り、時にケンカし、おなじ皿のメシと、おなじ布団で寝た。
アイツは自由にニャアニャア鳴き、俺は忠実にパフォーマンスしていく。
たらふく、と言えるほどには増えてはいない。だけど少しずつ増えている気がする。
なにより、気に入らなかったアイツは思ったよりいいヤツだ。
「センパイなにしてんすか。もっとあざとくないとダメっすよ。ってセンパイにはできないっすよね」
「おいこら、おめえ。馬鹿にしやがって」
相変わらず生意気ではあるが。
俊敏すぎるその背中を追う。
いつかたらふく食おうな、相棒。

7/15/2024, 7:58:49 AM