【ハッピーブルー】
9月1日、始業式の日。
誰もが憂鬱を纏い、去った夏を想いながら校長先生の話に耳を傾けようとしても、話が長すぎて退屈する日のこと。
案外、なんてこと無いのかもしれない。
みんなにとっては。
中には「やっとあの先生に会える」と喜んでいる人もいたりするかもしれない。
何だかんだ、みんな楽しみにしていたりするのだ。
けれど、私は違った。
もう憂鬱で憂鬱で仕方ない。
不安過ぎて消え去りたい。
とか考えながら、仕方なくポロシャツを頭から被る。
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私の不登校は、去年(高校一年生)の12月から始まった。
あの時は勉強についていけなくなったり、人間関係が上手くいかなくなって、精神が崩壊しかけていた。
ボロボロになりながら、なんとか糸一本だけ残っているみたいな状況だった。
何もかも上手くいかない、そんな時に私は聞いてしまったのだ。
ある日の放課後、教室に忘れ物をしたので取りに行こうとした時だった。
「なんか、橋本さんってさ」
私の苗字が聞こえて、びっくりした。
「なんか、橋本さんってさ、
人と喋るの下手だよね」
「あ、分かる。
なんか、友達少ないんだな〜って。」
「なんか、あのちょっとノリ悪い感じ?
気まずいときあるよね」
「いや、別に嫌いじゃないし、
別に悪口じゃないんだけどさ?
なんかねー、って思ってさ」
私は拳を握りしめた。
ああ、私ってそんなイメージだったんだ。
悔しい、悲しい。
教室で会話をしている4人組は実に楽しそうに会話していた。
……許せなかった。
「別に嫌いじゃないし」って、
嫌いなんでしょ?
私は分かっていた。
こういう空気感のときに出てくる「嫌いじゃない」も、「悪口じゃない」も、
全部嘘だ。
しかし、
友達少ないのも、人と喋るのが苦手なのも、集団行動が苦手なのも、
全部本当だ。
仕方ないじゃん、
友達との接し方なんてわかんないよ。
本当はここで面白いことを言えたら、
私の好感度は上がるのかもしれない。
気にしなければいいのに。
けれど、私にそんなことができる筈もなく、
忘れ物を置きっぱなしにして、逃げるように家に帰った。
家に帰ってから、自室に籠もって泣いた。
私、やっぱり無理だ。
もう辛い。
小学生の時にもっと友達を作っていれば。
私がもっと面白い人間なら。
もっとポジティブなら。
もっと有能なら。
あんなこと、言われなかったんだろうなあ。
高校生になって初めて宿題をサボって、
ひたすら泣いた。
翌日から、私は不登校になった。
もう限界だった。
中々リビングに来ない私を心配して、お母さんが自室の前まで来てくれた。
「大丈夫?どこか具合悪いの?」
「……もう、学校行きたくない。」
私は布団の中から言った。
その時のお母さんの「え……」という声を、未だに忘れられない。
ショックを受けたような、哀しい声。
その声を聴いて、私もショックを受けてしまった。
「上出来な娘じゃなくてごめんなさい」と思ってしまった。
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夏休みに担任から「もうそろそろ、教室入ってみてもいいんじゃない?」と声を掛けられた。
正直、「はやく不登校脱却しろや」という脅迫としか感じられなかったけど、
確かにもう生温いことを言ってられないと思い、
2学期の始業式から普通登校を始めることに決めた。
とはいえ、まだまだハードルが高い。
保健室登校までは頑張れる。
でも教室には入れない。
入った瞬間「え、誰こいつ」という空気感になりそうで怖いのだ。
「あと10分したら車乗るよ―」
リビングからお母さんの声が聞こえる。
「……はーい」
憂鬱すぎる、今から取り消せないだろうか。
「なんだか微熱があるような……」と誤魔化せば、今日も休めるかもしれない。
いやいや、と私の中の私が首を振る。
ふと、東京での思い出が蘇った。
あ、そういえばおばあちゃんからお守り貰ったんだ。
こんなこと思い出してる暇なんて無いのに。
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「海愛ちゃん、お守りあげるわ」
「え、お守り?」
「そう、これからも海愛ちゃんが楽しく暮らせるように」
そう言って、おばあちゃんは私に勾玉をくれた。
聡明な青い勾玉。
蛍光灯に照らされて、キラキラと光っていた。
「太陽の下なら、もっと綺麗に輝くんだよ」
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あのお守りは机の引き出しにしまってある。
今日は、頼ってみてもいいかな。
私はお守りを机の中から探し出し、通学鞄に急いでつけた。
黒い鞄に青が輝いている。
同時に、私の心がすっと軽くなるのを感じた。
「太陽の下なら、もっと綺麗に輝くんだよ」
私はその言葉に惹かれ、やっと学校に行く決心をすることが出来た。
「まだ〜?」
いけない、時間が迫っている。
私は鞄を持って階段を降りた。
「おまたせ!」
外に出ると、太陽が嫌と言う程眩しく感じられた。
鞄につけた勾玉は太陽光が反射して、
それはまるで海のようにキラキラしていた。
私をちゃんと照らしていた。
11/26/2024, 11:10:56 AM