意識が微睡む。
私はなんだかふわふわとした世界に身を横たえていた。
あたりは一面真っ白で私のほかには誰もいないし、何も無い。
けれど、不思議と私にさみしいという気持ちはなかった。
ふかふかの地面は、私の体をやわらかく包みこんで気持ちいい。
このまま、ここにいたいな。
本気でそう思い始めるくらいには、この世界は居心地が良かった。
空に目を向けると、普通なら青や赤色なのに、紫やピンク、黄色。いろんな色が混ざったグラデーションをしていた。
雲も太陽も、星も月もない。ただ、混ざりきらずない色だけが流れていく。
それはなんだか、見ていて飽きないもので、むしろずっと見ていたいとさえ思わせるものだった。
このまま時間が止まればいいのに。
そんな私の願いも虚しく、この世界の崩壊が始まった。
美しかった空が黒く淀み始め、ふかふかな地面はコンクリートのように硬くなる。
「お願い!元の世界に戻って!」
一生懸命に叫ぶ私の声にも、世界反応しない。
気がつけば、私の立つところにもその黒い淀みはきていた。
「……ッ時間よ!止まれ!」
私がそう言うと同時に、世界の崩壊は止まった。
後一歩でも踏み出せば、私の足は黒い淀みに触れることができる。
好奇心で、黒いよどみに触れようとしたけれど、本能が警告を鳴らした。
触れれば、私自身が黒い淀みに呑み込まれると。
することがなくなった私は、狭まってしまった世界で元のようにダラダラとし始めた。
でも、最初のような心地よさも、美しさも、この世界ではもう感じられなかった。
寂しさばかりが募り、私はふと口に出してしまった。
「元の世界に戻りたいなぁ……」
その瞬間、今まで止まっていた時間が再び動き始めた。
黒い淀みは今度は止まることなく私を呑み込む。
時間よ。止まれ。そう言えば呑み込まれることはないと分かっていても、私はついぞその言葉を口にしなかった。
黒い淀みの中は思ったよりも苦しくなくて、それでも、意識はどんどんと朦朧としてきた。
私、この後どうなるんだろう?
そんな疑問を最後に私は意識を手放した。
2/17/2025, 7:26:01 AM