緋衣草

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忘れたくても忘れられない (10.17)


「もー!いい加減変えてよそれ」
ミソッソソ〜ファラッララ〜♪と愉快な音で鳴るスマホを取って、青年はケラケラと笑う。
「いいじゃん『茶色の小瓶』。俺らの馴れ初めだもんな?」
「だから絶対それ嘘じゃん!」
ムッとして返しながらも口元が緩んでしまうのが止められない。

 あれは小学生の時。なぜか突然しりとりをやろう、と誘われた私は彼と話せるのがとっても嬉しくて。ずっと喋っていたいと3日間もしりとりを続けたのだ。“ルリビタキ”とか、意味も知らない言葉を調べる、なんてズルもしたけど。
その3日目、直前に音楽の授業であの曲をリコーダーで吹いた私は、「りゃくちゃ」と返した彼の言葉に意気揚々と「ちゃいろのこびん」と叫んで負けたのである。

「嘘じゃねぇよ。あん時のおまえのドヤ顔、マジで可愛かったって」
「またからかう!」
そう彼をつつくとまた着メロが鳴る。思わず吹き出していっぱいに満ち足りた顔で笑った。

10/18/2023, 9:59:11 AM