しば犬

Open App

......無い......無い、無い、無い!

無い!!!!!!




待ちに待ったこの日。
運命の1日
人生をかけたと言ってもいい日
3年間の成果がついに目に見てる形となって現れる
いつもより早く起き、クリーニングに出した戦闘服とも言える制服に手を通す。
期待と不安が胸を膨らませる。
空腹かストレスか、みぞおのち辺りがキリキリと痛む。
でも食べたい気持ちが箸を勧め、胃に食べ物を落とす。
忘れ物はない。受験番号の書かれた受験票、筆記用具。
お守り代わりのいつもの筆箱と筆記用具。
カバンの中に全てあることを確認し、発表会場へと向かう。
普段乗ることのない電車、拙い手で切符を買い乗り込む。
見慣れない景色が矢継ぎ早に通り過ぎる。
車窓から見えた景色の中に向かうべき場所が一瞬映り込む。
忘れかけていた不安が静かに心を蝕む。
緊張が身体を絡め取り、支配するかのような感覚に陥る。
視界が霞み白くぼやけ、周囲の音が徐々に小さくなっていく。
微かに聞こえるアナウンス。この路線には1つしかない濁点の入った駅名。
到着したのだ。アナウンスが僕を現実世界へと覚醒させた。

駅から歩いて行く、3分もしないうちに体はじっとり汗ばむ。
額にはたま粒の汗を滴らせ、息が上がる。
走っているわけでもない、真夏の昼間でもない。
歩いてい目的地向かう、まだ寒い3月の午前。

白亜の白い城壁のような校舎。
そこに続く、立派な銀杏の並木
その横に広がる、深い緑色をしたグラウンド
長い旅を終えたかのようにゆっくりと目的の場所へと歩みを進める。
着いた、着いてしまった。待ちに待っていたここに......

目の前に表示された、大きな白い看板には多くの数字が並ぶ。
大量の数字の羅列の中から見つけなければならない
4桁の数字を照らし合わせながら端から端へと目を配らせる。
「8500、この列か ......」
『8528』これが僕の数字だ。そして律儀なことにここの学校は、受験に落ちた人の場所を空け、合格者の数字を表示している方式らしい。

『8522』、『8523』、『......』、『......』、『8526』
飛ばされた数字を確認し、僕ではないという安堵と可哀想だなという同情が込み上げる。だが、すぐにでも自分の番号を見つけ心を落ち着けたい。
「えーと、『8527』、『......』、『8529』......?』
嘘だろ......冗談だろ?無いなんてことあるのか?
あるはずの、番号がそこに書かれていない
信じていた、僕の番号が、書かれてない!

終わりだ......終わった......もうダメだ

目の前の板は、僕に希望の未来を魅せるのではなく
この板とおなじ、何もかも書かれてもいない
そんな未来を僕に突きつけてきた......

空白の文字がいつか見えるのではないかとそんな浅はかなことしか今は思えない
膝から崩れ落ちたせいか、じんわりと暖かい感覚が膝に広がる......

途方もない喪失感が、心の中の空白を埋めるかのようにゆっくりと満ちていく

9/13/2025, 2:14:51 PM