テーマ『春恋』
入学式が終わって、俺は教室で自分の席に座っていた。中学からの友達とは残念ながら違うクラスになってしまったので、一人である。
「あの……その席、私のだと思うんですけど……」
どうやって暇を潰そうかと思案していたら、急に話しかけられた。顔を上げると少し困った顔をした女子がいた。メガネをかけた、ちょっと地味そうな感じの。
「え、あ、うわマジだ!?」
前を見ると、いつの間にか男子が座っている。その更に前には女子。男女交互の席順なので、俺が間違えているのは明白だった。
周りからクスクスと笑い声が聞こえて、余計に恥ずかしくなる。完全に俺の席のつもりで、荷物なんかも机に入れてしまったので慌てて出す。なんとかカバンに詰め込んで移動しようとしたところで、そのカバンが机に引っかかって大きな音を立てる。クラス中の視線が一瞬だけ集まって、耳まで赤くなるのが分かった。
「か、勝手に座ってごめん……ど、どうぞ……」
「はい……」
後ろの席に移動してから、ぐちゃぐちゃになってしまった荷物を入れ直す。入学初日から女子の席に座ってしまうなんて、恥ずかしすぎる。入学式のときより心臓がバクバクいってる気がする。
怒ってはいないだろうか、と遠慮がちに前を見ると、リボンがあった。
正面からだと見えなかったが、後ろを綺麗な赤いリボンで結んでいる。地味そうな印象とは対照的な、可愛らしいリボン。
カバンから荷物を出していたその子は、俺の視線に気づいたのかチラリとこちらを見て会釈をする。それに合わせて、リボンが揺れた。
それからというものの、俺はその子を目で追いかけていた。
多分これが、恋と言うのだろう。
4/15/2025, 12:42:03 PM