ミカヅキモ

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 「この時間帯に、ここの道を通るのって変な感じするね。」と彼女が言う。「そうだよね、入学以来かもね。」と返すが、頭の中では高校受験のことで一杯だ。

 中総体が終わり部活を引退した私たちには高校受験が控えていた。部活中心の生活から、授業が終わったらすぐに家に帰宅し受験勉強する生活へとあっという間に変貌した。スポーツというエネルギーの注ぎ口を無くし燃え尽き気味の私に、さらに追い打ちをかけるかのように秋風が容赦なく身体を冷やす。

 「ねぇ!あそこの葉っぱ綺麗じゃない!?」「紅葉好きなんだよね。」と彼女は指を刺しながら無邪気な様子でいる。見ると赤く染まった紅葉が夕暮れのオレンジの光に優しく照らされていた。それを見た瞬間、冷め切っていた心の中に温もりのある豆電球が灯るような感覚があった。

 「ありがとう、本当に綺麗だね。」「部活していた頃には見ることが出来なかった景色だね。」と答えると、「ありがとうって言ってるところ久々に見たかも。」と彼女はニヤニヤしながら茶化すような口調で言う。なんだそれと思うが、こういうやり取りを久々にした気がする。
 勉強が辛くなったら一緒に勉強に誘ってみるのもありかもしれない。

10/22/2025, 4:08:48 PM