《「ごめんね」》それは彼女の口癖だ。テーブルに置かれた塩を手渡す時。手が届かぬ場所の本を取った時。涙が溢れた目へ当てるハンカチを手渡した時。目眩でふらつくその身体を支えた時。闇に魅入られた色を持つ彼女の「ごめんね」を聞くたびに、僕の心に風が吹く。疑念の雲を少しずつ吹き払うかのように。ぼやけた心の輪郭がはっきりと見えたなら、本当の彼女を知る事が出来るのだろうか。
5/29/2024, 1:56:49 PM