作家志望の高校生

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周囲を見回すと、自分と似たような姿をした哀れな同胞達が、一見無表情に見えるその表情筋のまま戦火をごうごうと燃やし続けていた。
家族が居るんだと命乞いされようと、目の前の相手が何も知らない、何の罪もない赤子であろうと、敵国の人間である以上「敵」と判断し冷酷に切り捨てる。それが、普通の人間ではできないような鬼畜の所業を熟す、死に損ないな俺達の仕事だった。
戦場で両手足を吹き飛ばされた者。あるいは、脳髄の半分が露出して血の泡を吹いている者。そういった類の兵士を集め、脆弱な人間の身体を捨てさせる。意思も思考も残っているのに、それが自らの体に反映できないようにされた機械である。裏切ることもなく、躊躇って敵兵を生かすことも無い、優秀な兵士たちである俺達は、それでも心は人間のままだった。
小さく柔い赤子の額を撃ち抜く度、家族の写真が入ったロケットのかかっている胸を撃つ度、俺達はどんどん人間からかけ離れていく。鋼鉄製の指先も、壊れた同胞の物を引き継いだ脚も、血を被って汚れている。
誰も俺達に目を向けない。ほとんど死んでいるような状態で勝手に改造され、意思と体を切断されても、所詮俺達は実行犯。恨まれるのも、蔑まれるのも、罵声を吐かれるのも全て俺達。鉄鋼で固められたこの表情はぴくりとも変わらないが、酷い孤独感と後悔、理不尽への怒りと希死念慮に満たされて頭がおかしくなりそうだ。
長きに渡っている戦争は、まだまだ鎮火の気配を見せない。そろそろ、その下らない争いが始まって3度目の冬が来る。作戦終了時に詰め込まれるトラックの荷台も、初めはぎゅうぎゅうに押し込まれて狭かったのに、今では両足を伸ばしたって楽に座れる。そのうちまた追加が来るのだろうが。
光の差さない荷台の中、一人の男の哀れな呻きが響いている。もちろん俺達に発声機構なんて高尚なものは無いので、砂埃やら何やらで壊れた、定型文を収録してあるスピーカーから漏れるノイズなのだろう。アイツは明日には居なくなっているだろうなと予想を付けて、そっと意識を逸らす。同胞が処理されるのにこんな反応しかしないのだから、俺も大概、人でなしに染まってしまったなと自嘲して、体温の通わない、冷え切った金属の指先を目だけで見下ろしていた。

テーマ:凍える指先

12/10/2025, 7:43:05 AM