ただの社畜

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「お姉様。こんなところにいましたの?
ずっと探してましたわ」

やっと見つけた。急に私の前からいなくなってずっと探していた私だけのとても大切で愛おしい片割れ。

「ずっと一緒ってお約束してましたのに、どうしてですの?あぁ。でももう大丈夫ですわ。もう離れません。どんなことがあっても。お姉様が何を抱え込んでいようと私がずっと隣にいますわ。一緒に背負わしてください。」

お姉様に歩み寄っているはずなのに一向に縮まらない距離に焦りを隠せず口が止まらない。

「…。どうして私の言葉に返してくれませんの?
お姉様?私何かしてしまいましたか?何かご機嫌を損ねるようなことを、、、」

「           」

「っ?申し訳ございません。波の音が少々大きくて聞こえませんの。もう少しお側に、、。っ?」

自分の発言で今まで一度も止めていなかった足を思わず止めた。
…波の音?私は今、海。浜辺にいますの?
そうあたりを見渡すがここに来た時から辺りの様子は変わっておらず真っ白な空間が無限に広がっていた。
ここにきたときはサンドラを見つけた喜びで辺りをよく確認していなかったが、自分たちが今いる場所は明らかに自然的な空間ではなかった。
現実離れしている。

…ここはどこなのかしら。それにこんな空間で波の音なんて。、、いいえ。今波の音は聞こえませんわ。
波の音が聞こえたのはお姉様がお話になられた時だけ??

「お姉様?」

辺りを見渡していた視線をサンドラがいたところに戻すと、恋焦がれていた姉が目の前にいた。

「っんもう。びっくりしましたわ。でもやっとお側に来れましたわ。ふふ。もう意地でも離れませんわよっ。
私はあのお屋敷から解放された時から何年も。ずっとずっと探していたんですのよ。お話ししたいことがたくさんーーー」

「           」

サンドラがまた口を開き何かを言ったと同時にジェシカを強く突き放した。

「え?お姉様は私を拒絶いたしますの?」

視界が滲み、声が震える。
頭の中が「どうして?」で埋まり上手く思考ができない。
一度も向けられたことのない強い拒絶と冷たい眼差し。
その事実だけで体も頭も上手く働かない。
離れ離れになる前までは当たり前に感じていた確かな温もり。
毎日毎日、いくら聴いても心地の良い声。
いつだって私を安心させてくれる大好きで落ち着く匂い。
あまり表には出さないけれどいつだって私を一番に考えてくれる不器用な優しさ。

…なんとか私だけは生かそうと必死に考え、臆することなく議論に参加していた横顔。
巨大で抗うことすらできない存在に怯える私に何度も「大丈夫」と繰り返してくれていた少し震えた声。


最終日になった夜に、私を食べに来た狼の間に無理やり割って入り飛び散った赤。
それに比例し時間と共に青白くなっていく体。
お揃いの瞳から溢れる涙と一緒に次第になくなっていく光。
最後まで私を見つめ掠れる声で弱々しく繰り返される私の名前と大丈夫という言葉。

あぁ。あああああぁあぁあああああぁああああ。
思い出してしまった。私がお姉様に愛されていたことを。
お姉様自身の命より私の命を優先させたことを。

もう。お姉様はこの世界にいないことを。

「だって。だってっっ。GMさんが言ってたもん!
これはゲームだって。お姉様が真っ当されたお役目は私が生き残ったことで勝利されたって!!!!
だからっ。だから一緒にお屋敷出られなかったけれど、勝ったっていうことは生きてるってことでしょう?
だからずっと探してたんだもん!私はお姉様がいない世界なんていらない!私はお姉様と一緒にいたい。
もう…もう置いていかないで。1人にしないでっ」

嗚咽で上手く喋れない。
視界が滲んで何も見えない。
酸素が足りなくてフラフラする頭。
耳元で微かに聞こえるピーーという謎の電子音。

でもここで楽になれば。私はお姉様と一緒にっ。

そんな考えが浮かんだ瞬間バチンと頭が弾かれるような強烈な痛みを感じた。
耐えきれずフラリと倒れ、頭を抱えながら顔を上げようとすると懐かしい空気に包まれた。
忌々しい。殺したいほど憎んだ空間。
忘れたときなんて無かった時間。
何度も悪夢になり私を襲った、淡々と鳴り響く低い鐘の音。

でも、最愛のお姉様と過ごせた屋敷。

痛みと憎しみでどうにかなりそうな私を包み込んでくれたのはずっと追い求めていた片割れで…。
あの時と同じように抱きしめてくれた。

「会いにきてくれてありがとう。
ずっと大好きよ。いつも側で見守ってる。
ずっと姉様の隣にいるわ。寂しくなったら一度落ち着いてわたしを感じて。大丈夫。わたしの姉様は強い人だから。」

波の音が邪魔をしないのはこの忌々しい屋敷のおかげなのかしら。

「それと、一旦わたしの事を置いて。
自分の周りを見直しなさい。
姉様は1人じゃないわ。自分も周りの人もそんなに否定しないでもいいの。」

私が口を開いても声が出ない。
もどかしい。きっとお姉様も先程まではこんな感じだったのでしょうか。

「楽しんで生きて」

たくさん伝えたいことがあった。
感謝も、謝罪も、お姉様がいなかった時にあった楽しかったことも、悲しかったことも、悔しかったことも。

でもそれすらわかっているかのように、穏やかに笑うサンドラを見て私は泣きながら笑い返した。
お姉様は側で見守っていると言ってくださった。
じゃあ大丈夫。あなたがいるなら私は頑張れる。

「わたしにもっと色々な世界を見せて」

サンドラの体が次第に透け、屋敷もボロボロと崩れ始める。
あぁもう、時間がない。

「それじゃ、ご機嫌よう。ジェシカ姉様」

その言葉と同時に私も、お姉様も、屋敷も跡形もなく消えていった。










「……カさん?ジェシカさん聞こえますか??
先生!!!ジェシカさんの意識が戻りました!!」

「ジェシカさん!!!!あぁ。よかった。」
「なんであんな無茶を!!!とにかく無事で良かった」
「うっ。ううぅ。良かったよぉ。」
「もう、エマそんな泣かないでよっ。つられちゃうじゃんっっ」

騒がしい病室を横目に、ジェシカは屋敷をででから一度も見せなかったとびきりの笑顔を咲かせ、隣に感じる優しい温もりに囁いた。



「ふふ。ご機嫌よう。サンドラお姉様」






お題「海へ」
ジェシカ視点
(サンドラ純愛、ジェシカ愛され白陣営)

8/23/2024, 12:45:19 PM