MWの二次創作

Open App

台風が過ぎ去って




 雨が天井を打ち殴り、風が雨戸を揺らす激しい音が大人しくなった頃。僕は隣に住むユウくんが心配になった。
 祖父が建てたという古い日本家屋に住むユウくんのことだ。木造建築で、土間もあるあの古い家は到底耐震工事がされているとは思えない。
「お母さん。ちょっと有島さんの様子見てくる」
 十近くも歳の離れているユウくんとは友達だが、親の前では苗字で呼ぶようにしている。
「隣だけど、気を付けてね。色々飛んでると思うから」
 弟とヒーロー物の人形でごっこ遊びに付き合っている母は、肩越しに振り返って言う。
「何かあったらすぐ帰ってくるのよ」
「うん」
 倒壊している音は聞こえなかったけれど、防音加工もされているうちのことだから、分からない。瓦のひとつやふたつは落ちているかもと思い、父の軍手を勝手に持ち出し、長靴をはいて家を出た。
 玄関を出て、うちの駐車場の前を過ぎると、深い木の色の門が現れる。
 曇天を抱え、重厚な日本家屋が佇んでいた。何も変わらず、家は無事だったことに安心した。
 玄関チャイムを鳴らす。しばらくして、銀髪に寝癖を作ったユウくんが玄関のドアを引いて現れた。
「……ああ、湊くんか。おはよ」
 関西のイントネーションでユウくんは話す。
「おはよう、じゃないですよ。もうお昼の二時ですよ」
「今日平日じゃないん? 学校は?」
「台風で休校になりました」
「台風? やったら、家出たらあかんやん」
 目を丸くしている。もしかして、爆睡していて台風に気付いていなかったのだろうか。怖がってないだろうかとも、台風が通り過ぎるまでの間ずっと、心配して落ち着かなかったのに。
「ユウくんが心配で来たんですよ。家が崩れてるんじゃないかなって」
「ふっふっふっ。三世代に渡って色んなとこ工事して、強してたんよ。抜かりは無いで」
 不思議とドヤ顔をしている。そんな顔をすることではない気がする。
「はあ。そうですか」
「つめたぁー」
 何にしても、無事で安心した。
「元気そうで良かったです。それじゃ」
「え。それだけ? 上がって行かんの?」
「はい。ちゃんと家にいるか、学校から不意打ちで電話がかかってくるそうなんです。僕が出ないと」
「へえ」
 ユウくんに手を振り、帰路に着く。数歩歩くともう、自分の家の敷地内だ。
「ただいま」
「おかえり。もう帰ってきたの」
「うん。有島さん寝てて、台風に気付いてなかったんだって」
「ええ? あんなにうるさかったのにね」
 確かに。家が揺れる程の強風にも関わらず、びくりともしなかったユウくんに、人知れず笑みを吹き出した。

9/13/2025, 12:20:02 AM