John Doe(短編小説)

Open App

出血する地球の話


足元に、朽ちたAKが落ちていた。
そのすぐそばに、焼けただれた男か女か分からない黒い塊がうつ伏せで倒れている。
夜間なのにとても明るい。僕らはハンビーとともに行軍という名のピクニックをしていた。いくつもの焼死体をまたぎ、油田の燃えるにおいを嗅ぎながら、油でベトベトした砂を踏みしめて歩く。
地球の肥溜めのような場所からは火が吹き上げ、大地を妖しく照らしていた。それはマグマのように流れ、出血しているようにも見える。

どこもかしこも死体だらけだ。兵士の死体かレッドゾーンからグリーンゾーンへと逃れてきた市民かは知らない。ただ、死体は僕らを殺しに来ることはなかった。僕らは油でぬるぬるした装備一式を手持ちの水筒で洗い流した。東の空で味方のA-10の飛行音を聞いた。やれ、やっちまえ。敵の車両をズタズタにしてやれ。僕らはM16を掲げて空に向かって大声で吼えた。

合衆国からここへ来てもう200日が経過していた。僕はまだ一人も殺していない。仲間たちもだ。死体はそこら中にあるというのに、本当に何もしていなくても行く先々に争いの痕跡が残っていただけ。きっと空軍や陸軍が掃除してくれたんだろう。海兵隊はただ怯えながら、歩くだけだった。

目が覚めないんだ。眠らずに僕らはずっと歩き続けている。合衆国に帰りたいと思っていたはずなのに。異国の死体に囲まれて、家族の元へ帰ることを忘れて。ここはどこだ? 中隊長は黙って歩くよう命令する。地球が血を流している。合衆国市民はラジオで大統領演説を自宅のソファーで寝転んで聞くだけ。地球が血を流していることなんて知りもしない。

僕らが死んだって、誰が気にかけるだろう。僕らはいつの間にか砂漠の砂となって朽ち果てていく。
あのAKのように。
あの焼死体たちのように。
ホワイトハウスに星条旗が掲げられても、僕らの魂はまだこの地獄をさ迷い続けていた。

3/23/2024, 8:13:34 AM