僕はずっと待ち望んでいた。今、この瞬間を。苦しみから貴方を解放できるときを。
プリズムの、七色の眩い閃光。輝きに貫かれ、彼はきらきらと消滅した。それは残酷な殺人にも、安らかな最期のようにも思えた。
元は透明だったクリスタルは、真っ黒く染まっている。輝きを失って、役目を終えたように佇んでいる。ようやく、終わったのか。長い溜息を吐き、床に大の字になった。
それは“世界一美しい兵器”と呼ばれる。全長約3メートルの、岩のような宝石の塊。或る島国の孤独な研究者が発明したらしい。透き通り、なめらかな表面が倫理の無さを誤魔化していて、僕は直前までそれを使うことを避けていた。理由は特に無いけれど、なんとなくとても非人道的な行いだと思った。
仲間と任務を裏切った彼に、制裁を与えることになった。僕は何度か上の者を説得したが、彼の犯した罪はあまりにも重かった。
せめてもの情けだった。拷問師の僕が彼に出来ることと言えば、きっとこれぐらいだ。美しい兵器によって、美しい死を遂げること。本来ならば許されないこと。けれども僕は後悔も反省もしていない。大切な彼が苦しまずに済むのなら、僕はどうなろうと構わないから。
体を起こして、醜い兵器に触れる。赤黒いべったりしたものが手についた。そのとき僕は初めて、彼を殺したことをはっきりと自覚した。
一作目「クリスタル」
7/2/2025, 1:35:27 PM