〈 贈り物の中身〉
窓の外では、みぞれまじりの雨が降っている。
十二月に入って最初の週末。いつものカフェは、クリスマスの飾りつけで華やいでいた。
四人がテーブルを囲むと、南月が両手をこすり合わせながら言った。
「さっむ! もうホットココア一択!」
「もう完全に冬だね」
遥香がマフラーを外しながら微笑む。首元には、小さなペンダントが揺れていた。
「それ、新しいの?」
晶穂が目ざとく気づく。
「あ、これ?この前の誕生日に、あの人が……」
遥香の頬がほんのり赤くなる。どうやら例の上司と付き合い始めたらしい。
「いいなあ、プレゼント!」
南月が身を乗り出した。
「でもさ、もらった贈り物ってどうしてる?みんな全部持ってる?」
「急にどうしたの」
芙優が不思議そうに尋ねる。
「いやね、この前引っ越しの準備してたら、元カレからもらったものがいっぱい出てきちゃって。
どうしようかなって」
南月の声に、いつもの明るさとは少し違う、困惑が混じっていた。
「捨てられないの?」
晶穂が冷静に聞く。
「それが……。アクセサリーとか、本とか、CDとか。全部に思い出があるんだよね。別れた今となっては、ちょっと複雑な思い出だけど」
「わかる」
遥香が静かに頷いた。
「私も昔の彼からもらったマグカップ、まだ使ってる。可愛いし気に入ってるから捨てられなくて。
でもたまに、これ使うたびに思い出すのってどうなのかなって思うことある」
「物に罪はないって考え方もあるけどね」
晶穂がカップを両手で包みながら言った。
「でも、新しい恋をするときに、過去の贈り物が部屋にあるのって、なんとなく申し訳ない気もするよね」
「そう!それ!」
南月が大きく頷く。
「次に誰か部屋に来たときに、"それ誰からもらったの?"とか聞かれたらどうしようって」
「聞くかなぁ、そこまでチェック入る?」
遥香が苦笑する。
しばらく沈黙が流れた。窓の外の雪は、少しずつ本格的になってきている。
「私ね」
芙優がゆっくりと口を開いた。
「昔もらった手紙は、全部箱に入れて押し入れの奥にしまってある。見返すことはないけど、捨てることもできない」
「手紙かあ……」
南月がしみじみと言う。
「最近って、手書きのものもらうことないよね。データで残るメッセージばかりで」
「そう考えると、物としての贈り物って、重みがあるのかもしれない」
晶穂の言葉に、三人が顔を上げた。
「重み?」
「うん。形があるものは、捨てるという選択を迫られる。でもデータは、放置できる。スマホの中に思い出が眠っていても、日常では目に入らない」
「なるほど……理論派」
南月がクスッと笑った。
「でもそれって、逆に言えば」
芙優が続ける。
「形あるものは、ちゃんと向き合わないといけないってことだよね。
持ち続けるか、手放すか」
四人の視線が、遥香のペンダントへと自然に集まった。
「私は……このペンダント、大事にしたいと思ってる」
うつむきながら、遥香が胸元に手を当てる。
「たとえこの恋が叶わなくても、この気持ちを持っていた自分を忘れたくないから」
「素敵」
芙優が微笑んだ。
「でもそれって、今進行形の恋だからじゃない?」
南月が少し寂しそうに言う。
「過去になった恋の贈り物は、どうすればいいのかな」
晶穂がゆっくりとココアを飲み干して、言った。
「無理に答えを出さなくてもいいんじゃない?
今は持っていて、いつか自然に手放せるときが来るかもしれない。
大事なのは、その物に縛られないことだと思う」
「縛られない……か」
南月が窓の外を見つめる。
「そっか。
持ってるからって、過去に囚われてるわけじゃないもんね」
「うん。それに」
芙優が優しく言った。
「贈り物って、物そのものより、その時の気持ちが本当の中身なんだと思う。
箱を開けたときの驚きとか、嬉しさとか。それはもう、あなたの中にちゃんとあるから」
南月の目が、少し潤んだ。
「そうだね。ありがとう」
四人は温かいカップを手に、しばらく無言で冬の景色を眺めていた。
外に出ると、雪はやんでいた。冷たい空気が頬を撫でる。
「さて、次は温泉だったわね」
遥香が明るく言った。
「冬の温泉、楽しみ!」
南月も元気を取り戻している。
「その前にクリスマスがあるけどね」
晶穂が笑う。
「今年もまた、プレゼント交換する?」
「もちろん!」
四人の声が、冬の夜に溶けていく。
贈り物の中身は、きっと思い出そのもの。それを抱きしめるか、そっと手放すかは、それぞれの心が決めること。
季節が巡るように、人の心も静かに変わっていく。
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ストーリー立てしないで会話中心になるときは、ネタに詰まってる時です(
ミステリーぽいお話とかできそうだけど、この辺で。
12/2/2025, 11:18:30 PM