かたいなか

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「みかんといえば、『陳皮(ちんぴ)』とかいうミカンの皮を乾かした生薬と、『オレンジフラワー』だの『オレンジピール』だののハーブティーか?」
昔スーパーで試食配ってたねーちゃんが、カマンベールにオレンジマーマレードのせて渡してくれて、それは美味かったわ。
某所在住物書きは賞味期限間近なマーマレードの瓶を眺めながら、これをどう処理すべきか思考していた。
「『ミカン科』のグループで言えば、レモンもミカンで山椒もミカン。カレーリーフもミカン科だとさ」

意外と仲間は多いようだが、で、その「みかん」で何書けっていうんだろう。物書きは相変わらず途方に暮れて、ため息を吐く。
「『マーマレード 活用法』で調べたら、照り焼きとかマーマレード焼きとか出てきたわ。……パンだのチーズだのに使うだけじゃねぇのな」

――――――

今年も残すところあと少し。皆様、大掃除等々、進んでいますでしょうか、そうですか、失礼致しました。
今回は「みかん」のお題に苦戦した物書きが、こんな苦し紛れをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち賢く美しい母狐は近所の茶葉屋で店主として、優しく穏やかな父狐は某病院で漢方医として、
それぞれ労働して、納税して、コンコン、人の世を見続けてきたのでした。

今日は漢方医の父狐、自宅の庭に作っているハーブガーデンだか、薬草園だか、ともかく不思議な不思議な「狐の薬」の材料をどっさり植えている場所に、
ひとつ、病院のお給料で買った苗を、それはそれは大事そうに植える作業をしておりました。
ミカン科ミカン属、ウンシュウミカンです。
冬の寒さに負けぬよう、ちょっと大きめの苗木です。
それは漢方「陳皮」を実らせる木であり、ハーブティーに用いられるオレンジピールとオレンジフラワーの木でもあり、
すなわち、これが元気に育って実をつければ、茶葉屋の母狐もきっと喜んでくれるのです。

温暖化により、ミカン栽培の北限が段々変化してきて、今では宮城県なんかでも栽培されている、なんて言われている昨今。
都内でも何件か知りませんが、それでもミカン園があるというウワサ。
宮城や都内で育つのです。なんなら父狐が育てられぬ道理は無いのです。
『まぁ、なんて素晴らしい!』
コンコン父狐、母狐が喜んで自分をグルーミングしてくれるのを、想像してひとりニッコリ。
『さすが私の夫です。花が付いたら花を摘んで、実が付いたら皮を丁寧に干しましょう』

わぁ、わぁ。君がそんなに喜んでくれると、私もお小遣い、頑張って奮発した甲斐があるよ。
みかんの実がどっさり付いたら、あまずっぱい果汁で鶏肉を焼いて、照り焼きたくさん作ろうね。
ぶんぶんぶん、ぶんぶんぶん。コンコン父狐は嬉しくって嬉しくって、頭の中が幸福で、化けて隠してた尻尾がコンニチハ。
猛烈な勢いで、わんこのように振っています。
だってコンコン父狐、1■■■年に母狐と結婚してから■■年、ずっと母狐を愛しているのです。
まさしくこの、みかんの花言葉のひとつのように、純粋に、ただただ純粋に、家族の幸せと平和を願っているのです。

「何やってらっしゃるの?」
ほら、尻尾をビッタンビッタン振りながら苗木を植えている父狐のところに、母狐が音を聞きつけて、やってきました。
「あら、みかん?」
とうとうペッタン狐耳まで幸福に畳んでしまった父狐に、母狐、冷静に言いました。

「植え付け時期確認なさった?」

一般的に、みかんの植え付けは、3月中旬から4月中旬が適期とされているそうです。

12/30/2023, 4:07:59 AM