東条 誠

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色とりどりの花が、色を失ったビル街の雨雲の下に咲いている。
一人一人で忙しなく乱れているのをどこか滑稽に思いながら私はエレベーターでフロントまで降り、カバンから折り畳み傘を取り出した。……が、外を見る限りどうやら雨が強いようだ。こんな風雨じゃ折り畳み傘なんて無力だろう。ぼんやりと空を見ると、しばらくすれば弱まりそうだった。はあ、とため息を吐きスマホを取り出そうとした瞬間、後ろから色鮮やかな色が私の手元を染めた。

「よ。困ってる?」
「……横溝君。フロントで傘を開かないの」
「ハハッ、お堅い氷川様の仰せのままに〜。けど俺はツンケンしてるかっこいいお姫様のために傾けてるんだぜ?」

へらりと茶髪の彼が笑う。ステンドグラスの模様が描かれたビニール傘を持ったいけ好かない彼は、肩を竦めながらのらりくらりとクサイセリフで躱す。私はその言葉の一つ一つに顔を顰め、指先で傘を退ける。

「変な冗談はよして。そういうのは好きな子にでもやりなさい」
「だから今やってるだろ」

は、と声が漏れた。
その声を食べるように、彼は私の口を手で覆ってから彼自身の手の甲へキスを落とし笑う。
あまりにも非現実的で、信じられなくて。

だけど。
仕方ないから、今日はステンドグラスみたいなその傘に入ってあげることにした。
雨は、そろそろ止みそうだ。

6/19/2024, 1:40:33 PM