色野おと

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この年の瀬が迫る時期に〝ベルの音〟と言えば、大抵の人であればクリスマスと繋がるイメージを持つことだろう。

かく云う私もそのように意図を汲んだりもしたけれど。正直なところ、最初に思い浮かんだのは電話の呼び鈴……《電話ベル》のことだった。

お洒落にクリスマス・ベルのことでも書けば良いのだろうけれど、私の長年の生きてきた光景のなかで《電話ベル》は深く強い印象で残っている。

携帯もパソコンさえもなかった昭和時代が私の青春の真っ只中だったせいかもしれない。電話と言えば、家の玄関付近に置かれていて、ベルが鳴れば家人の誰かしら気づいた者が先に受話器を取りに玄関へ足早に向かう。

年末のこのような寒い時期に電話で長話をしようものなら、暖かい格好をしなければ玄関の冷たい空気との厳しい闘いになる。雪など降ろうものなら、家の中だというのにダイヤルを回す指が冷たくてかじかみそうにもなる。そうなのだ、玄関の凍てつく空気の中で響きわたる電話のベルの音は精神の闘いのゴングのようなものでもあった。

だがひとつだけ、そんなベルでも心が踊るようなベルの音に感じられることもあった。仲良くしていた女友達から「今日、夜の○時○分くらいに電話するね」と言われていて心待ちにしていたときのベルの音だ。長話になることを想定して、準備よく厚着していたりもして。それを見た親からは「あんた、もしかしてこれから何処か出掛けるの?」などと聞かれもしたりして。

今のスマホのように、鳴れば直ぐに出られるというものではなかっただけに、そんなベルの音にも深い思い出・ストーリーがあったんだ。それはそれでいい時代でもあったんだろうなあ、なんて。



テーマ/ベルの音

12/20/2023, 12:18:18 PM