色野おと

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テーマ/寒さが身に染みて


外から帰ってきても、しばらくは部屋の中で厚手のアウターを着込んだままストーブの前にしゃがみ込む。
手袋をしていたにも拘わらず、指先の感覚はまるで雪の中についさっきまで差し込んでいたあとのようにジーンとしていた。
急に暖めたせいで、かえって痛痒くなる……それも痛い感覚が70パーセント、痒い感覚が30パーセントといった状態だ。思わず自分の内腿に両手を挟んで強く擦り合わせてしまった。

表面的にはカラダじゅうから寒さは拭えたのだけれど、なんだかカラダの芯が軋むように感じる。ホットココアを飲むという選択もあったけれど、早めにお風呂へ入ることにした。昔と違って今の給湯器は沸くのが早い。20分もしないうちにコールサインが鳴って、人肌よりも2℃高めの湯船に肩までどっぷりと浸かった。

お風呂セットの日本の名湯〝別府の湯〟を入れたせいか、微かに蜜柑のような香りの湯気が立ちのぼる。薄い灰色のにごり湯に何となく鼻の高さまで潜って、ブクブクと息を吹いて遊んでみる。
そんなことをしていたら何やらどうしたものか、若い頃の色んな辛かったことを思い出した。でも、その全部を乗り越えてきて今がある。どんな人生にも必ず春の陽気は訪れるもんなんだよなあ、などと火照り微笑みながら、声なく独り言ちるように心の中で思った。

寒さが身に染みるから、あとで暖まることの喜びやら幸せというものを噛みしめるように感じることが出来るんだよね。

なんだかうとうととして来て、気持ち良くてお風呂の中で寝てしまいそうになった。湯冷めしないうちに裏起毛のあるフリース地のルームウェアを着込んで、さらに半纏を羽織った。ストーブの点いたリビングでアイスクリームを片手にソファーへ腰を沈める。なんという幸福感かしら。なんならばアイスケーキまで食べられる勢いはあるやも。

身に染みるほどの寒さが嘘のようだけれども、そんな寒さがあったからこその温かな幸せな時間を満喫している私なのである。

1/12/2024, 3:17:35 AM