檸檬味の飴

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彼は、ずっと長袖だ。




短パンもあまり見たことがないし
マスクもずっと付けてる。

髪の毛の襟足は伸びきっていて
前髪も目にかかっている。


でも、それ以外は普通の男の子。


好きな食べ物はメロンパンで、嫌いなのは抹茶。

甘党すぎて、最近私からのストップが入ったほど。
逆に苦いものとか辛いものは嫌い。

でも梅干しはいけるんだって。


星と飛行機が好きで、よく天体観測をしてる。

部屋も星座の本や空に関する本がたくさん置いてあって、
暇な時はいつもそれを読んでる。


夜、彼の家に遊びに行った。
親が一晩だけだと許してくれた。

正直、私は彼の上着やマスクの下が気になる。

付き合ってからも一度もマスクは外したことはないし、上着も脱いだことがない。

水泳でも、体育でも、外れることはない。

多分、何か理由がある。先生と親を通じて外さなくても良くなる様な、深い理由が。


本当は踏み込んじゃいけないとこだと、甚だ感じている。

でも、彼女として……というのは苦しい言い訳だけれど、
気になってしまった。



ベランダに出て、綺麗な星空を見上げる。


「あれはなんていう星?」

指差しながら聞く。心地いい風が彼の髪を揺らして、
かっこいい目元がちらちらと見える。

「さそり座やで。かっこええやんなぁ」

そう言いながら目を輝かせた。かわいいなぁ。


「さそり座、どっかで聞いたことある」

「夏空を代表してる星と言っても過言やないんやで?」

「そうなんだ!…夏といえば、夏の大三角形とか?…あんまり覚えてないけど…」

「デネブとか覚えとる?中学でやったやんな」

「あ!なんか…なんとなく…」

「んは、なんとなくかぁ」

「星も覚えたいから、教えてね」

「もちろん。何時間でもできんで」

ありがとうと笑って返す。


少し時間が過ぎる。


といっても、少しの沈黙。



私は、思い切って言った。


「ねえ、」


「ん?どしたん」


「上着とかマスクで肌を隠してるのって、何か理由があるんだよね、?」


そう聞くと、少し目を丸くした後、微笑んだ。


「うん、そやで。見る?」


そう思いがけない返事が来て、少々戸惑う。


「えっうん、」


「まあ、見ても気ぃ悪くなるだけかも知らんけど…」


そう俯いた。


「大丈夫、私君の彼女だから。」


君の理解者になりたい。

寄り添いたい。

なんでもいい、形はなんでもいい、

私の恋が実った、証拠が欲しかった。



「な、なんや、嬉しいこと言ってくれるやん」


頬を赤らめた。


そして、ジーッと上着のファスナーが降ろされる。


完全に脱ぐと、


白い半袖から覗く

赤く爛れた肌があった。



マスクも外れて、
初めて見える、彼の顔があった。


「俺な、色々あって、ほぼ全身火傷してんねん。でも、それは火事とかやなくて、所謂、障害ってやつやな。」


そう淡々と話す彼の横顔は、感情が読み取れなかった。


「かっこいいね。」


「えっ」


気づけば、そんなことを呟いていた。


「あっ、えっと…、、、急にごめんね、でも、本当にかっこいいよ」


そう彼に投げかけると、


「……そか、ありがとう」


優しく微笑んだ彼の目頭は紅かった。







お題:半袖  2023/05/28

5/28/2023, 10:51:53 AM