11 手ぶくろ
道の片隅に落ちてる手ぶくろを発見した。
薔薇模様が刺繍された白い手袋は、身に着ける貴婦人に気高い品位と自信を与えていたことがわかる。だが、しかし、長いあいだ雨風にさらされ続けたのだろう、かつてのその面影はなかった。
酷く汚れて横たわるその姿はどこか寂し気に見える。今もこの場所で主人を待ち続けているのだろうか。悲しみと憂いを帯びているように見えるのは、気のせいだろうか。
「ヨシヨシヨシヨシヨシーーッ!」
男が雄叫びをあげて、ぼろぼろになったその布切れを拾いあげた。
「魔法の手袋ゲットオオ!!」
手にしたぼろ切れを掲げるこの男は、世界を救う勇者、と名乗っている。
街の防具屋で売られていた魔法の手袋は、庶民の六ヶ月分の給料に匹敵するようなもので、とても普通の人が手を出せるものではない。
なので、こうして道端で防具をかき集めているわけだが……。
「あー……でもこれ片方しかないなー」
勇者業を始めて十四年――。
まだ、旅立つ前の話しである。
12/27/2024, 1:23:53 PM